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風の聖痕 蒼の行方
日時: 2005/06/15 22:19
名前: スレイヤー

愛して欲しかった、一番でなくてもいいから

抱きしめて欲しかった

認めて欲しかった

だから、力が欲しかった

でも、だめだった

そして、全てを失った・・・・・



プロローグ


1人の少年が月の照らす森の広場で座禅を組み瞑想していた。
まだ若い年は16歳前後だろう。だが、少年特有の、幼さを感じる気配はせず、むしろ、側にいるだけで、心を穏やかにさせる、春の風のような雰囲気をこの少年は放っていた。
そのためか、少年の周りには沢山の獣たちが穏やか顔をし、寝ていた。

だが、そんな穏やかな雰囲気は長くは続かなかった・・・・

突然、風が変わった、春風のような柔らかな風が突如として、
真冬の木枯らしに変わり、辺りに殺気が満ちた。

それに伴い、今まで、静かに眠っていた獣たちは、はじかれるように起きた。

鳥達は、一目散に飛び立ち、ウサギやリスなどの小動物は一目散に逃げ、熊や狼などは一斉に戦闘態勢をとり唸り声を上げていたが、殺気が近づくにつれて、大人しくなり、ついには山に逃げていった。
              
そして、辺りには先ほどと違う静寂が満ちた、そんな中でも少年は1人座禅を組、瞑想していた。

それからしばらくし、少年は目を開け、言った。

「行くのですか?和麻」

すると背後から、返事が返ってきた。

「止めても無駄ですよ、ジン老師」 

和麻と呼ばれたこの男はまだ若く、顔立ちも整っていて、町を歩いて女の子に声をかければ十人中九人は着いていくだろう。
だが、憎悪と狂気に満ちた瞳と、全てを滅ぼすような濃厚な死の気配(におい)が全てを台無しにしていた。

危険な香りのする男は女性にモテルと言う。が此処まで来ると、さすがに無理であろう。

ジンと呼ばれた少年は和麻の殺気を−常人ならば死んでいる−物ともせずに言う

「止めはしません。ただそれで、本当によいのですか?」

その言葉に対し和麻は何も言わなかった。ただ瞳に悲しげな色が宿ったが、それも一瞬のことで直ぐに狂気の瞳に戻った

「俺は天涯孤独の身だ、親もいなければ、兄弟もいない。
たった一つ、本当に・・・本当に守りたかった者は、本当に愛した女(ひと)はもういない
だから殺す、ヤツを殺す、俺の全てを奪ったアイツを絶対に殺す!!
そのためだけに俺は力を手に入れた、そのためだけに俺は生きている。
今更、後悔などしない」

和麻の言葉は憎悪に満ちていた。

その言葉に「和麻、剣で嘆きは拭えない」ジンは悲しげな口調で言うが
              
和麻の答えは揺るぎなく、「俺にはもうこの『風』「けん)しかない」と言い切った。

そんは和麻にジンは、何も言わずに懐に手を入れて一つの小さな小瓶を取り出し、ひょいと和麻に投げ渡した。

「ジン老師これは?」

「エリクサ−です」

「よろしいのですか?」

「構いません、僕にはもう、それぐらいしか力になってあげる事が、出来なませんから。それと最後に一つ、何か遭ったらいつでも帰ってきなさい、僕にできる事があれば、どんな事でも力になりましょう」

その言葉に対し和麻は「ありがとう御座います」の言葉を最後に和麻は風に乗り消えた。

和麻がいなくなった後ジンは座禅を解き立ち上がると、
月を見ながらため息を一つ吐いた。



メンテ
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Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.1 )
日時: 2005/06/15 22:21
名前: スレイヤー

四年後



「趣味悪い・・・」

それが依頼人に対する最初の印象だった、もっとも最後まで変わらなかったが。

山手の高級住宅街に、建物(屋敷)はあった

−これを屋敷と呼ぶのは屋敷に対して失礼である−

周囲の調和という物を完全に無視しているため貰った地図が無くても、この辺りで一番悪趣味な建物と町の人に尋ねれば、幼稚園生でも、教えてくれるであろう。

(もしかして、そう考えるのは俺だけが?)

和麻は一瞬かなり真剣に悩んだが、直ぐにその考えを消した。

「まあ、仕事だしな・・・」

自分を納得させるようにそう呟く。

しかし、そう言う和麻の格好も、決して仕事に相応しい格好ではなかった。

ジーンズにスニーカー、チェックのシャツに黒いジャケット二十二歳という若さのせいかその辺にいる大学生となんらかわりない。
自分の事を完全に棚に上げ、観察しているうちに妙な事に気が付いた。
屋敷を覆う闇が聞いていた以上に深く、妖気が高い。

「帰ろうかな」

物凄く嫌な予感がして和麻は真剣に考えた。
妖気の方は対処できないわけではない。
だが今までの経験からして、こんな場合は、ろくな事が無い。

しかし、仕事を投げ出すわけにはいかない。

これが、日本での初仕事だ、『嫌な予感がした』何て理由ですっぽかしたりしたら、これから先、仕事を回されなくなる。

重い足取りで、和麻は門に向かって歩いった。呼び鈴の前で立ち止まり、どうするか悩んでいると、「八神様ですね」インターホンから声が飛び出した。
これが、決め手となり和麻は覚悟を決めた。

そんな心境を知ってか知らずが相手は一方的に声を続けた。

「お待ちしておりました。どうぞ、横の扉からお入りください」

ガチャリ

その言葉と同時に門の左にある扉が開いた。そこから勝手に入って来いというらしい

(言葉と行動が全然違うぞお前)

かなり不愉快だったが相手はお客様だ。言われるままに扉をくぐると、そこにはメイドが立っていた

「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」

歩き出したメイドに続いていく中、嫌な予感はどんどん膨れ上がっていった。

(帰ときゃよかった・・・)

案内されたリビングに入った時、和麻は自分の選択を後悔した

そこには偉そうに踏ん反り返った依頼人(坂本)と、一人の術者がいた。

彼は、和麻を見ると蔑みに満ちた顔をした

「なんだ、もう一人の術者とはお前のことだったのか、和麻。神凪の嫡子でありながら、無能ゆえ勘当された、お前がよくも、術者などと名乗れたものだな」

説明的なセリフは依頼人に聞かせるためだろう。術者、名前は忘れたが、神凪分家の誰かは実に楽しそうに、和麻を馬鹿にした。

坂本は血相を変えて和麻に詰め寄った。

「それは本当なのかね?話が違うじゃないか!一流の霊能者だという話だから。
君を雇ったんだぞ!!」

和麻はため息を一つ吐くと冷静に答えた。

「仲介人が何と言ったかは知りませんが、不服なら俺は帰りますよ」

「ふむ、そうだな」

坂本は笑みを浮かべた。

「こうしてはどうかね?二人に徐霊してもらって成功したほうに報酬を払おう。まあ、無論失敗した方にも前金を返せとは言わんよ如何かね、慎治君に和麻君」

「いい考えですな」

ふざけた言い草だったが真治は即座に了承した。そして、バカにしきった顔つきで和麻に問う。

「お前はどうする?」

「俺は降りる」

和麻は即答した。二人の侮蔑した顔にも、眉一つ動かさない。

「ふん、腰抜けが、そこで指をくわえているがいい、
炎術の手本を見せてやるぞ」

「手本ね、分家の末っ子ごときが」

「き、貴様ー」

見下していた相手に逆に見下され慎治は激昂し、依頼人の前である事も忘れ
和麻に殴りかかった。

拳を固めて、殴りかかってがるが、突然横から何かに殴られ凄まじい勢いで横に倒れた。

「い、一体なにが?」

慎治が驚くのも無理は無い、彼かして見れば、行き成り透明人間に殴られたような物なのだから。

「そのまま死んでろ」

絶対零度の視線で言う。

「だ、黙れ!」

その視線に怯えながらも再度殴りかかろうとするが

「そこまでにしてもらおう」

不意に静止の声がかかり二人は同時に声の方を向く、坂本は注目を集めたことに満足し、さも大物ぶった調子で二人をたしなめた。

「君達を呼んだのは、試合をしてもらうためじゃない、ここにある全ての物が君達の報酬より高いのだよ、乱暴な真似は止めてくれため」

かなり、なめた言い方だった。

(こいつ等、消そうかな)

和麻はかなり頭に来ているようだ。

「ん・・・?」

だが、その前触れも無く、出現した妖気が、新たな展開を告げた。

「来るぞ」

和麻はさりげなく妖気から離れた。

「なんだと、なにが」

和麻に遅れること、十数秒以上、妖気が収集しようやく真治も気が付いた

「一体、どうしたと言うのかね?」

いまだに、状況を理解できていない坂本に和麻は言う

「貴方に取り付いた悪霊が出てきたんだすよ」

適当に解説をしながら、和麻は尋常でない違和感を覚えた。

(これは、悪霊なんかじゃないぞ、どうなってんだ)

和麻が依頼を受けた時、仲介人は『ただの悪霊払い』と言っていたはずだ。

――ま、初仕事ならこんなところだ。何、あんたの実力が噂どおりなら、片手で捻れる相手だ。――

軽薄そうな男だったが、実績は確かだと聞いている。
彼らの仕事はある意味術者より信頼が命だ。これほどのミスを犯すことなどありえない。
ということは

(はめられたか。まあいい、取りあえずこれが片付いたら、ヤツを始末するか)

和麻はかなり物騒なことを考えていた、だかそれも仕方あるまい。
彼らの仕事は常に死と隣り合わせし、騙されたままでいると、今後の付き合い方にも影響が出る。

そのため、偽りの情報屋流したヤツを痛めつけるというのはあながち間違ってはいない。

殺すのは流石に酷いと思うが。

和麻は壁に寄りかかると腕を組んで見物に回った。


慎治は『悪霊』の出現と同時に、自らが放てる必殺の炎で焼きつくつもりだった
チリも残さず完全に焼き尽くす。
深く集中する・・・そして、術は完成した、後はこれを相手に向かって解き放つだけだ。
だが、その様子を見ていた和麻はあきれ返っていた。

(あんなに時間をかけてこれしか出来ないのか?
こいつ死んだほうがいいな)

慎治が召喚した精霊は確かに、一般人にしてみれば脅威であろうが、並以上の術者には通用しない。さらに言うなら、和麻がこれだけの時間をかけたなら、半径二キロを十回は塵にできる。

そんな、和麻の考えなど知らない慎治は気合と共に術を解き放った。

「はああああああぁ!!」

轟!!

慎治の放った術は妖魔に直撃し慎治は勝利を確信していた。

だが・・・

「ばーか」

和麻は一言呟くと、次に起こる火事に備えた。

ぎおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ・・・・

悪霊の苦痛が轟き慎治が勝利を確信した、次の瞬間

炎が爆発し、慎治と無意味に広いリビングが炎に包まれた。

カかカカカカカカカカカ

悪霊の影に隠れ、慎治の炎を喰らい尽くした妖魔が嗤った。

神凪一族は炎を操る『炎術師』の中で最強とされる一族である。
単に力が強いだけではなくに、普通の炎のように、分子運動を加速させることで生じる物理的現象ではない。魔を焼き払う力を有する。『破邪の力』を秘めた炎を有している。
そのため、神凪一族は魑魅魍魎とその他ありとあらゆる『闇』に対して圧倒的に有利な立場に立つことができる。
だがそれは血筋による力でもある。血が薄れていくにつれ、その能力が低下することが必然である。
分家の人間が最高位の炎である『黄金』を失って久しい。

炎の属性を有する妖魔が相手ならば、放った炎を逆に吸収されることもあり得るのだたとえば今回のように・・・・

「死んだかな?」

部屋は煉獄と化し炎が荒れ狂うが、風が和麻を優しく包み込みに、その威が届かない。

だが、そうでない者もいる。

「ひぃ、た、助けて」

先ほどの威勢のよさは消えて弱弱しい声で助けを求める坂本。

あっちこっち焦げてはいるが、残念ながら死んではいなかった。

「た、助けてください」

坂本は、叫びながら必死に、和麻に助けを求めるが、和麻は少し考えた後言った。

「では、二億いただきましょうか」

二億、普通のサラリーマンが一生かかって稼げるお金が、二億少々。
普通の人がこんなこと言われたら、即座に断るであろう。だが、坂本は生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
そのため。

「わかった、払う、払いますか」

「契約成立」

和麻は表情を変え、にこやかに笑うと、目の前の悪霊を睨む。

「さて、お引き取り願おうか・・・・」

和麻は風の結界で坂本を一応、守ると真剣な表情になる。

和樹はポケットに両手を突っ込んで結界から軽い足取りで抜け出す、無論風を纏って。
結界から出た瞬間、彼は真剣な表情になる。

「邪魔だ」

ボソリと呟いた一言でリビングを煉獄に変えていた炎が消え。ほんの一瞬で、リビングは無残の姿をさらした。

消え去った炎の変わりに部屋を支配したのは荒れ狂う風だ。和樹はただ静かにタバコをくゆらせポケットに両手を突っ込んだままだ、指一本さえ動かしていない。
それでも風は和樹の意思に従い炎を削っていく。妖魔はただ黙って滅びを待つしかない。まさに戦いと呼ぶことがおこがましいほど一方的な戦いだった。

「これで」

和麻は最後にゆっくりと右手を上げ、右手の親指と中指をあわせ、妖魔のほうに向ける。霊視力のある者なら、その手に集った精霊の密度に恐怖しただろう。

「終わりだ」

指が弾かれた、『パチン』という音がし、右手の延長上に伸びた不可視の刃が空気分子すら切り分けながら、妖魔を真っ二つにした。

音もなく、霊子の欠片さえ残さずに消滅していく妖魔を、和麻は冷めた目で見ていた。

「終わった」

和麻は床に未だ転がったままで呆然としている坂本に告げる。

「で、大丈夫ですか?」

突然かけられた優しい声に驚きながらも坂本は返事をした。

「あ、ああ、私は大丈夫だが」

「そうですか、それは良かった、アアそれとよく見たら、酷い有様ですね、これは修理するのに結構な額のお金が掛かりそうですね。よし報酬は半額の一億でいいでよ」

「本当かね?!」

「ええ、そのかわり、お金は三日以内に振り込んでおいてくだい。さもないと、・・・」

美味いやり方だった、足元を見て高額を請求し、その後、優しく接することで情の深い人に思わせる。

飴と鞭である。

だが、効果は絶大だ。

「わかった。金は三日以内に払う・・・しかし結城君には悪いことをしたな。まさかこんな大事になるとは思ってもみなかったよ」

「ああ、それなら、大丈夫ですよ」

報酬を頂いたからにはお客様である、そのため和麻は坂本に対しお客様として接した。

そんな坂本の言葉に反応し、和麻はゆっくりと慎治の成れの果てらしい消し炭に近づき
和麻はその成れの果てを思いっきり踏みつけた。

その行動にさすがに坂本も声を荒げる。

「な、何をするんだ!?君達の間で何があったか知らないが、死体を辱めることはないだろう!?」

「ですから、ほらこのとおり」

ボソリと吐き捨てると、和麻は何度も繰り返し踏みつける。すると表面を覆っていた炭が剥がれ落ち、ほとんど焼けどもしていない肌が現れる。

「こ、これは・・・」

「神凪の人間は皆、炎の精霊王の加護を受けています。分家の人間だってこの程度の炎じゃ死にはしませんよ」

そして和麻は自嘲するように唇を歪め、こう付け足す。

「俺は例外ですが」

「う・・・ぐ・・・」

そうこうしている内に慎治が目を覚ました。周囲を見渡し、すでに妖魔が滅んだことを確認する。

「お前がやったのか?」

「見ていた通りだ」

今までとはうってかわった、態度で接する

意識を保っていたことを見抜かれ、慎治は慌てて釈明した。

「気づいていたのか・・・だが、さぼった訳じゃないぞ。
本当に動けなかったんだ」

「見苦しいぞ、カスが」

和麻は冷たく言い捨てると、背中を向けて立ち去ろうとする。だが慎治は立ち去ろうとする和麻に、慌てて声をかける。まだ聞かなければならない事がある。

「なぜ戻ってきた?」

「俺の自由だ」

慎治はその言葉でさらに険しい顔をする。

「それで長老方が納得すると思っているのか?」

「知るか」

「・・・何を企んでいる?」

「特に何も」

和麻は簡潔に答える。

「神凪に戻ってくるのか?」

「そろそろ、黙れ」

殺気混じりの声に慎治は言葉を発する言葉できなかった

「俺がどうしようと、俺の勝手だ」

和麻は慎治にそう告げると、今度は坂本に言葉を掛けた。

「では、俺はこれで失礼させて頂きます」

「ああ、それと、先ほどはすまなかったね、あの情報屋は正しかった、君を雇って大正解だったよ、其れに比べて、こっちヤツと来たら」

侮蔑を顕わにし慎治を見て言葉を叩きつけた。

「まったく、何が彼は無能者だよ、君のほうが百倍無能だよ!!」

「ええ、全くですね、では、報酬のほうは宜しく頼みましたよ」

「うむ、また機会が有れば宜しく頼むよ」

和麻は一礼するとその場を去った。

後に残ったのは呆然とする、慎治に家を焼かれて怒り狂う坂本だった。

だが、

(一刻も早く宗主に御報告せねば)

先ほどの和麻の様子に慎治はとてつもない不安に襲われた。

慎治の不安は的中する。神凪を滅亡の淵に追い詰める戦いは、今、この瞬間から始まったのだ。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.2 )
日時: 2005/06/15 13:07
名前: スレイヤー


「知っとるか、和麻が日本に帰ってきとるらしいぞ。しかも風術師になっとったんだと」
「なに、あの能無しがか?風術師ってのは、えらく簡単になれるもんなんだな」
「いや、俺は黒魔術師になったと聞いたぞ。あいつが術者になろうとしたら、悪魔に魂を売るしかないだろ?」
「あー、そりゃそうかもしれんな」
「あははははははははは・・・」
その日、神凪本邸では和麻の噂で持ちきりだった。
慎治の報告を聞いた長老―――現役を退いた術者の管理を司るものの総称である。

その中の一人が、面白半分にある事無い事をばらまいたのだ。
ちなみにそれを報告した慎治は、任務失敗の咎で謹慎している。

長老と言う人種はよほどまじめな例外を除くと、基本的に暇人である。

『偉そうにしているのが仕事』と陰口を叩かれることもある。

仕事がないときは、日がな一日茶を飲んで、四方山話に興じている連中である。面白い話には目がない。手当たり次第に噂をばらまきまくった。

一時間としない内に広大な屋敷の中で、和麻の帰国を知らない人間は、ほとんどいなくなった。それこそ使用人に至るまでが、何種類も噂話を耳にした。
それはつまり、正確な話を知る者は皆無に近いということだが、長老にとって大した問題ではない。

『面白ければあとはどーでもいーや』と言うのが長老たちの基本的な姿勢だからだ。

かくして、和麻の情報は慎治の希望とは正反対の方向で広められた。

曰く−−

「和麻が黒魔術師になって帰ってきた」

「和麻は人知れず殺され、裏庭に埋められていた」

「和麻は仕事でかち合った慎治を瞬殺した」

「和麻は風の精霊王と契約した。いや悪魔とだ」

微妙に真実が混じっていたりもするが、ここまで来ると誰も信じない。当然、和麻を恐れるものはいない。
宗家の出来損ないが、母の胎内にすべての才能を置き忘れてきた上澄みが少しはましな力を身につけて戻ってきたらしい。誰もがそう笑い飛ばした。

だがごく一部には例外もいた。そのうちの一人が現宗主である神凪重悟である。夕食の席で笑い話として語られた一件に、重悟はことのほか興味を示した。

「ほう、和麻が風術を?知っていたか、厳馬?」

臨席していた彼の従兄に話しかける。厳馬は和麻の実の父親である。6年前、和麻をこの家を消し去った人物だ。
「・・・は」
厳馬は短く答えた。すでに噂を耳に入れていたらしく、動揺している様子はない。しかし喜んでいないことは明らかだ。

『苦虫を噛み潰したような』と言う表現がピッタリのしかめ面をしながら、拳を硬く握り締めている。目の前に和麻がいたら絞め殺してやりたい。そんな顔つきだった。

「お恥ずかしい限りです」

「別に恥ずかしいことではあるまい」

重悟は軽く返すと、召使に命じた。

「詳しく話が聞きたい。慎治を呼べ」

「かしこまりました」



慎治は畳に額を擦りつける程に平伏していた。緊張のあまり、額には汗が浮き、呼吸が乱れる。

神凪一族において、宗家と分家という身分の差は絶対的と言っていい。下克上など、夢想することさえ愚かだ。
伝統、格式――そのような抽象概念による制度ではない。両者を隔絶させているのはただただ圧倒的なまでの力の差だった。

もし仮に、分家の術者が総がかりで挑んだところで、重悟や厳馬にかかれば、小指の先でひねり潰してしまえるのだ。その絶望的な力の差を前に、叛意など抱けるものではない。

慎治が緊張するのも無理はないと言えるだろう。神にも等しい自身の絶対的上位者である重悟の前で、無様な失敗談を語らなければないのだ。それこそ生きた心地もしなかった。

「顔を上げよ。そう畏まることはない」

重悟は気さくに話しかけるが、宗主の顔を見て話すことは、慎治にはあまりにも畏れ多すぎた。結局、顔を上げたものの、目は伏せたまま畳を見たまま報告をする。

「で、では、ご報告をさせて頂きます」


「・・・そうか」

報告を聞き終えると重吾はそう言って、沈黙する。

「・・・そうか」

確かめるように、もう一度繰り返す。軽く目を閉じ、6年前に出奔した甥―――正確にはもう一親等離れているが、面倒なのでそう称している―――の記憶を回想する。

(哀れな子供だった)

神凪の家に生まれなければ、優秀な子供と言われただろう。知能に優れ、運動神経も良く、術法の習得においても秀でた才能を示した。ただひとつ、炎を操る素質がないことを除けば。

それこそが神凪一族にとって、最も重要視される素質だったのだ。

炎を操る才のない者は、ほかの何に長けていようと無能者扱いされた。だからこそ神凪に和麻の居場所はなく、無かった。

だが、重吾は思う。

(何故・・・何故、私を頼らなかった、和麻。家を捨てる必要などなかったのだ。私ならばおまえの居場所を作ってやれた。厳馬が何を。厳馬が何を言おうと、炎術に拘らず、お前の才能を生かしてやれたのに・・・)

、重悟は自分の右足を見下ろした。金属とプラスチックでできた、作り物の右足を。あんな事故さえ起こらなければ、『継承の儀』を急がなければ、和麻は今でもここにいたのだろうか?

しかし、全ては遅い・・・和麻は家を、姓を、神凪の全てを捨てて日本を離れた。

これが現実だ。変えることのできない『過去』なのだ。

「・・・宗主?」

気遣うような声が、重吾を現実に引き戻した。見ると、皆、気まずそうに沈黙していた。無理もないだろう。この中で和麻を苛めなかった者など、ほとんどいないのだ。

しかし、和麻を追い出した張本人である厳馬は顔色ひとつ変えず言い放つ。

「宗主。和麻は既に神凪とは縁のない者。お気になさる必要はございますまい」

「厳馬、そなたは自分の息子を」

「私の息子は煉ただ一人にございます。和麻などと言う者はおりません」

宗主の言葉を遮り、厳馬は平然と言い切る。重吾は尚も何か言い返そうとしたが不毛な争いを嫌ったのか、別の無難な言葉を口にする。

「もうよい。和麻は結局、風術師として大成したのだ。神凪を出て正解だったのかもん。それとも兵衛、お前のところに預けていれば、良き力となったか?」

「かも、しれませぬ。」

下座にいた風牙衆の長は、むっつりと答えた。

そこに、またしても厳馬が異議を挟む。

「畏れながら、風術など所詮は下術。仮に6年前、和麻に風術の才があるとわかっていても、風牙衆などに預けるくらいならば,迷わずあれを勘当したでしょう。」

己の技を公然と侮辱され、兵衛は屈辱に顔を歪める。しかし、誰も兵衛の顔など見ていなかった。

戦闘力に至上の価値を見出す神凪一族にとって、探査・戦闘補助を役割とする風牙衆の地位は限りなく低い。厳馬の言葉は、暴言ではなく、神凪での共通の認識に過ぎなかった。

「・・・この話はここまでとしよう。飯がまずくなる。」

重吾の言葉に、皆は明らかにほっとした表情を浮かべた。申し合わせたように明るい話題を話し合い、他愛のないジョークに腹を抱えて笑った。

ぎこちなくも、いつもの食堂の雰囲気が戻っていく。

それ故に、誰も兵衛の目に宿る冥い光に気が付かなかった。兵衛は顔を伏せ、あらん限りの憎悪をこめて呟く。

「この屈辱、忘れはせぬぞ、厳馬め・・・」

あとがき

始めましてスレイヤーと申します。
これが、初めての小説となります。
そのため、いろいろと間違った所がでるかもしれませんが、お許しください。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.3 )
日時: 2005/06/15 13:34
名前: スレイヤー



「神凪・・・いや、八神 和麻か・・・。まったく、いいときに帰ってきてくれたものだな。」

一条の光もない、闇に満たされた一室で、しわがれた嗤いが張り詰めた静寂を打ち破る。

「では・・・?」

「うむ、皆も聞くがいい。ついに時は来た三百年に亘る屈辱を晴らすべき時が。今こそ我らは失われた力を取り戻し、栄光の座に返り咲くのだ。」

『おおおおおおおお・・・』

押し殺したどよめきが空間を震わせた。

「思い知るがいい、神凪一族め・・・。一人残らず滅ぼしてくれるぞ・・・くくく」

闇より深い怨嗟の声が、低くこだました。







「う、うわああああぁぁぁぁぁぁっ!な、何だ、何なんだお前はぁっ!」

深夜、慎治は絶叫していた。周りには二つの生首と、首なし死体がころがっている。そして眼前に立つ一人の―――人間?

断言はできない。見た目は人間だがこれほどの妖気をもつ人間などいるはずがない。

慎治と、30秒前まで生きていた二人は、揃ってなす術もなく結界に取り込まれ、二人は即座に首をはねられた。

慎治が生き残ったのは、他の二人より優れていたわけでも、運が良かったからでもない。

嬲っているのだ。この人身の悪魔は、慎治の恐怖と絶望を喰らっていた。じわじわと嬲り殺すことを楽しんでいた。

『それ』は不可視の刃を操り音もなく二人の首を断ち切っていた。『それ』と同じことができる人間を、慎治は一人だけ知っていた。
昨日会ったばかりで、更にその男には自分たちを殺す動機もある。

慎治は必死になって『それ』に許しを乞う。声が完全に裏返っていた。

「か、和麻か?和麻なのか?許してくれ、俺が悪かったよ、反省してるよ、だから許してくれよぉっ」

返事は風刃の一閃だった。右腕が豆腐のようにつけ根から切断する。

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

絶叫しつつ、無我夢中で炎術を起動する。死を目前にした集中力、二十五年の人生で最高の威力を発揮する。

あらゆる魔を滅殺する、最高位の黄金の炎が敵を包み込む。

「や、やった。これなら―――」

不意に『それ』は炎を鷲ずかむと一気に体から引き剥がした。

炎の束縛を逃れた『それ』はまったくの無傷だった。身体はおろか、服に焦げ跡ひとつ無い。『それ」は再びゆっくりと慎治に向かって歩きだした。

冴え渡る月光の下、音も近づく凶々しい影。それがどこか歪んだ。それでいてどこか人目を引き付けてやまない。異界の美とも言うべき美しさをはらんだ光景だった。

「ひ、ひひっ、ひひいひひひっ、きゃはははあははははは!」

突然、慎治が奇妙な声で笑い出した。
恐怖のあまり、精神の均衡が崩れたらしい。
風刃が全身を切り裂いていくが、何の反応も示さず笑い転げている。

『それ』は反応のない慎治をなぶるのを飽きたのか、要らない玩具を放り捨てるように、無造作に慎治の首を刎ね飛ばした。

ゴトッと鈍い音を立て、三つ目の首が路上に転がる。生ある者を殺しつくしても、「それ」はまだ物足りないのか、執拗に死体を切り刻み続ける。

ものの数分で三つの死体が細切れに変わった。

親、兄弟が見てもわからないどころか、もはや何の肉かもわからないだろう。

血と生肉の生臭い臭気の漂う結界の中で、『それ』は酷薄に嗤うと、空気に溶けるように消え失せた。

後には三つの生首が残る。身体とは反対に、傷一つ付いてない首が。いつの間にか門前に一直線に並び、それぞれが奇矯な笑みを浮かべた三つの生首は、まるで門から出てくる者達に、

「悪夢の世界へようこそ」

と笑いかけているようにも見えた。


こうして、惨劇は始まった―――

メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.4 )
日時: 2005/06/15 23:18
名前: スレイヤー


「まだか?いつまでかかる兵衛!!」

「―――しばしお待ちを」

背後で急かす男に、兵衛は振り向きもせず答えた。そっと瞑目し、その両手はまるで水でも掬うかのように窪めて、前に差し出している。

ひゅるりと風が吹いた。兵衛に向かって。
風が空気に中に漂う残滓を運び、兵衛の掌に落としては過ぎ去っていく。掌にたまっていく妖気を誰もが息を呑んで見つめていた。

門前に転がる三人の肉片が発見されたのは、翌朝になってからのことだった。信じられない事態に、神凪一族は震撼した。
それも当然だろう。目と鼻の先で身内が三人も殺されたのに、それを防ぐどころか誰一人気づきもしなかったのだ。

事実の究明のために、直ちに風牙衆が召集された。そして兵衛自ら空気中に残る妖気をかき集め、敵の正体を洗い出しにかかったのだ。
「ぬぅ・・・」

「こ、これは・・・」

呻きにも似た声が漏れる。兵衛の再現した妖気はほんの掌大の大きさに過ぎない。

にもかかわらず、その妖気の禍々しさと総毛立つほどの冷気はその場にいた者達を・・・・名高き神凪の術者達を恐怖させるには十分だった。

「これは風術によるものです。それも風牙衆よりも桁外れに強力な術者が、風の結界に三人を取り込み、虐殺したのでしょう」

兵衛の報告は特に有益なものではなかった。現場を見れば一目瞭然と言ってもいい。

「そんなことはわかっている!これは誰の仕業なのだ!?」

「これ以上のことは、もう少し時間を頂きませんと・・・」

当然の詰問に兵衛は言葉を濁す。

「さっさとやれ!それだけが貴様ら無能者の取り柄だろうが!」
「やめんか」

重悟は罵倒する術者達を黙らせ、兵衛にねぎらいの言葉をかける。

「そうか、ご苦労だった。もう下がっていいぞ。―――ところで流也の具合はどうだ?」

宗主が自分の息子に気をかけていることが意外だったのか、兵衛は一瞬、ひどくうろたえた顔をした。

「は・・・・安静にしていれば支障はありません。しかし神凪一族のお役に立てるほどに回復することはもう・・・不甲斐ない息子で、申し訳ありません」

「病気では仕方あるまい。流也を責めるな、養生させてやれ」

重悟のいたわりの言葉を受け、兵衛はひれ伏し感謝の意を表す。

「は・・・ありがとうございます。部下に指示を出さねばなりませんので、これにて・・・」

「よろしく頼む―――期待しているぞ、兵衛」

風牙衆の長は、無言で口頭して、その姿を消した。




敵は風術師。神凪に深い恨みを持つ者。

ある意味予想通りの報告に誰もが同じ思いを浮かべる。絶妙なタイミングで日本に戻ってきた男の名を。

「和麻じゃ!奴は復讐のために力を身につけ、日本に戻ってきたのじゃ!者共!裏切り者の和麻を殺せ!一刻も早く和麻を奴を見つけ出し、抹殺するのじゃ!!」

金切り声で喚き散らしのは先代宗主、頼道である。現役を引退しても尚、先代の威光を嵩に来てわがまま勝手に振舞っているのだ。

一族のほぼ全員に嫌われているが、本人だけがそのことにまったく気づいていなかった。

「父上、先走りすぎです。和麻がやったという証拠は何一つないのですよ」

重悟は頼道の暴走を押さえようと口を挟む。
「手ぬるいっ!和麻以外に誰が・・・」

「先代、少し黙って頂きたい。あなたが口を出すと話が進みません」

耳障りな声で喚く頼道を厳馬が冷然と遮った。その目に浮かぶ侮蔑を隠そうともせず。
大した実力もないくせに、謀略の際と一族内のパワーバランスによって宗主に選ばれたこの男を、厳馬は心の底から軽蔑した。

頼道が宗主の地位にあった三十数年間、神凪の力は史上最低にまで落ち込んだ。

神凪の象徴の神剣・炎雷覇を頼道は制御できず、かといって最強の呪法具を他人にゆだねる器量も持たない。
その結果、炎雷覇は重悟が宗主になるまで倉庫に死蔵されていた。

厳馬は思う―――これほど愚かな話しはないと。
宗主の地位は最強に術者が継ぐ、それが厳馬の信念だった。ゆえに、重悟が宗主となったことを恨んでいない。自分の力が及ばなかっただけと納得している。

息子を次代の宗主に就かせようとした時も、策略によらず、和麻を宗主にふさわしい術者に鍛えようとした。

和麻にしてみれば、いい迷惑だったが。

頼道に信念がない。あるのは権力欲のみ。厳馬はそう思っていたし、事実その通りでもあった。そして、そうした考え隠そうともしない厳馬を、頼道もまた激しく嫌悪していた。

伯父と甥と言う近しい関係にあるだけに、二人の憎悪は一層激しく、深いものだった。

「お主、和麻を庇おうとしているな?いや、これはお主の企みなのではないか?和麻に異国の術を学ばせ、重悟と綾乃を殺し、煉に宗主を継がせるつもりではないだろうな?」

頼道はその矛先を厳馬に向ける。悪意が物質化し、粘液となって糸を引きそうな物言いに、周囲からざわめきが起きる。

「それは下衆の勘繰りと言うもの、それに私の息子は煉ただひとり、和麻などという者はおりません」

厳馬もまた同じように非礼な言葉で返す。彼はまったく気にも留めない。この男の言葉など彼にとって蚊に刺されたほどにもない。

「父上!いい加減になされよ!」

しかし重悟は、この暴言を聞き流すことは出来なかった。強引に退場を促す。

「先代はお疲れのようだ。自室に下がって頂け」

「待たぬか重悟!厳馬を信じてはならぬ!儂の言うことを聞かぬと、必ず後悔することになるぞ!」

頼道は両脇を抱えられながら、荷物のように運ばれながら、消えた。

「申し訳ない。父の暴言、私の顔に免じて許して欲しい」

重悟は畳に両手をついて頭を下げる。厳馬は如才なく応じた。

「お気にならさず。先代も神凪を愛すればこそ、あのような発言をなさったのでしょう」

空々しいやり取りを終えると、二人は顔を見合わせ和やかに笑った。
『この話しはここまで』と言う暗黙の了解を得て、実務的な打ち合わせに入る。

「先代の言はともかく、タイミングが良すぎる事も事実です。一度呼び出して話を聞いた方がいいでしょう」

厳馬の口調は至って平静だった。到底、自分の息子を詮議している雰囲気ではない。

「和麻は大人しく従うかな?」

「従わなければ、力ずくで引きずってくるだけのこと。少しばかり力を身につけたところで、所詮は和麻。二、三人でかかればたやすく捕らえられましょう」

「・・・よかろう。人選は任せる。一刻も早く和麻を連れてくるのだ」

重悟も所詮は神凪の人間だった、勘当された時点で、和麻はもう神凪とは何ら関りがないのだ。それを無理やりつれて来るなど、犯罪もいい所だし和麻に殺されても文句は言えない。

「御意」

やはり人事のように平静に、厳馬は息子の捕縛命令を受け入れた。


「綾乃様がお帰りになりました」
さらに対策を練る二人に―――特に重悟には―――うれしい知らせが届いた。

「おお、戻ったか!」

重悟の顔が緩み、厳馬は覚めた目でその様子を眺めた。
待つほどもなく、彼女が現れた。

スパーンと景気よく開いた襖の先に、その場にいる全員の視線が集まる。

「ただいま帰りました、お父様!・・・って、どうかしたの?」

威勢良く現れた少女は、場の雰囲気に気づくと訝しげに訪ねた。腰まで届くまっすぐな黒髪がかしげた首の動きにあわせて波打つ。

光り輝く美少女だった。少女の出現と共に、暗くよどんだ空気が一掃されていく。
その身から溢れ出す霊気が、室内を一気に祓い清める。正体不明の敵の出現、そして身内の死。
暗い話題をつき回していた者達は、まばゆい輝きが不安や焦燥を消し去っていくのを感じた。

朱を刷いた金―――まさに太陽そのものの輝きの前に、すべての暗い波動は存在することを許さないただそこに在るだけで、闇を祓い、光をもたらす強大な霊威。
炎雷覇の継承者にして次期宗主の地位を約束された者。それが重悟の愛娘、神凪綾乃だった。

「報告はどうした、綾乃」

重吾が娘をたしなめた。緩みきっていた顔は、すでに別人のように引き締まっている。娘の誇れる格好良い父親でありたい。それが重悟の信念だった。

「失礼いたしました」

綾乃はその言葉を聞きその場に平伏する。

「解き放たれし妖魔、完全に滅殺いたしました」
「うむ、よくやった」

術者として、宗主への報告を終えると、綾乃は無邪気に質問を繰り返した。

「で、何があったんですか、お父様?」

「ふーん、鼻先で三人も殺されたのに誰も気づかなかったか。確かに一大事よね」

遠縁とはいえ、身内が三人も殺されたと聞いても、綾乃は落ち着いていた。
『一大事』との言葉も、『三人が殺された』ではなく『誰も気づかなかった』事を指している。

冷たいわけではない。何を優先すべきか、彼女はしっかり把握しているのだ。まだ十六歳の少女にしては、驚嘆すべき自制心といえた。

「その風術師がだれか、見当もつかないの?」

「疑わしいのが一人いる」

綾乃の問いに、重悟は苦々しげに答えた。

「・・・和麻だ」

「誰それ」

その言葉に重悟はこめかみを押さえる。

「再兄弟の名前くらい覚えておけ。継承の儀で炎雷覇を賭け、争っただろうが」

「再兄弟って・・・六年前に家出した和麻さん?あれって争ったっていうの?」

正直すぎる娘の言葉に、重悟は厳馬の。だが、内心はともかく、外見からは厳馬の感情の揺らぎは読み取れない。

「確か、どっかの外国に言ったって聞いたけど・・・そこで修行して風術師になったって事?」

「そのようだ。最近日本に帰ってきたらしい。八神和麻と名を変えてな。殺された慎治が、昨日出会っていた。仕事がぶつかって、見事にしてやられたそうだ。六年間かなり努力したようだな」

「やっぱりあたし達のこと恨んでるのかな?」

「かもしれん」

重悟は無表情に答えた。

「だが、・・・だが、だがらといって殺されるわけにはいかん。万が一、和麻が犯人ならば、あ奴の命を以って贖わせる」

「万が一、ね」

綾乃はちらりと厳馬に目を向ける。厳馬は眉一筋動かさず、綾乃の視線を受け止める。和麻を追い出した張本人と、その原因となった者の視線が交錯させる。

先に目を逸らしたのは綾乃だった。術者としての実力はともかく、人生経験では向こうのほうが遥かに上。正直、腹の探り合いで勝つ自身はない。
不毛な争いはやめ、重悟に向き直る。

「で、どうするんですか?討ちますか?」

「和麻がやったと決まったわけではない。とりあえず、あって話をしてみよう思う」

淡々と物騒なことを言い出す娘に、重悟は危険なものを感じる。

炎雷覇と言う圧倒的な力を有するせいか、綾乃は何事も力ずくで解決しようとする傾向がある。次期宗主としての立場を自覚し、もう少し柔軟な思考をして欲しいと常々思っていた。

「まだお前が動く必要なはい。別命があるまで待機していろ」

「・・・はい」

不承不承に頷いた娘に、重悟はねぎらいの言葉をかける。

「ひと仕事終えたばかりで疲れているだろう。今日はもう下がって休みなさい」

「・・・わかりました」

納得した様子ではなかったが、綾乃は父の言葉に従った。

一礼すると速やかにその場を離れる。作法通りに襖を閉めるまで、一度も重悟と目を合わせない当たり彼女の抱いた不満が如実に現れていた。

「・・・我侭娘が」

重悟はため息交じりで呟く。しかしそんな苦々しい口調をもってしても、娘への溢れんばかりの愛情を隠し切ることは出来なかった。

メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.5 )
日時: 2005/06/16 03:53
名前: スレイヤー

和麻の居場所を探し出すのは神凪の情報網を持ってすれば簡単なことだった。

翌日の朝には見つけていたが、別に自慢できるわけではない彼は本名でホテルに泊まっていたのだ。

そして厳馬の命により、二人の術者が和麻の確保に向かった。

結城慎吾、そして大神武哉。共に分家ではトップクラスの術者である。性格が正反対な割には不思議と相性がよく、二人が組めば宗家以外に敵はないとさえ言われていた。

厳馬にしてみれば、手持ちのカードの内、最強の二枚を出しただけだった。しかし、結城家の長男を選んだことは、致命的なミスといっても良かったかもしれない。何せこの男には、和麻を説得する気など欠片もなかったのだから。

「和麻の野郎、ぶち殺してやる!」

「殺しちゃまずいだろう。少なくとも口が聞ける状態で連れて行かないとな」

二人は何度も同じ会話を繰り返していた。正確には弟の復讐に燃え、何度注意しても命令を忘れそうになる慎吾を、武哉がうんざりしながらも宥める。その繰り返しだった。

随時入ってくる見張りの報告によれば、和麻はまっすぐにこちらに向かっていた。誘い込まれていることにも気付かずに。

少なくとも、彼らはそう思っていた。狩りをしているのは自分たちだと。

「まだかな」

「もうすぐだろ」

この会話も飽きるほど繰り返されていた。二人ともおなじ報告を受け取っているのだから、聞いても無駄なことは分かり切っているはずなのだが…。

「何やってんだ、風牙の能無しはよ!!和麻一人くらい、さっさと連れて来やがれ!」

慎吾の苛立ちは、着実に務めを果たす風牙衆にまで向けられる。

「心配するなよ。風牙衆はこういう仕事に関しては有能だぞ」

武哉はあえて綺麗事を言うことで慎吾を煽った。風牙衆を庇ってやるつもりは全くない。彼らを口撃することで、慎吾の気が逸れるなら大歓迎だとさえ思っていた。

案の定、慎吾は噛み付いてくる。

「けっ。こそこそ嗅ぎまわるのが得意だからって、何の自慢にもならねーよ」

「そう言うなって。あいつらはまともに戦う力のない哀れな連中なんだ。半端仕事にでも使ってやらなきゃ可哀想だろう?」

「違ぇねえ。ぎゃぁははははははははー」

武哉の狙い通り、慎吾は苛立ちを忘れたようだった。たがの外れた笑声を聞きながら、武哉は思う―――十秒おきに『まだか?』と聞かれるよりは遥かにましだ、と。




『来ました。五百メートル前方です。まだ気付かれてはいません』

不毛な会話を続ける二人の耳に、見張りの声が流れてきた。風牙衆の使う、呼霊法と呼ばれる伝声法だ。風に声を乗せて、遠隔地まで届けることができる。

「来たか。手足を一本ずつ焼いてやる。端っこからな」

誰に言うともなく、慎吾はそう呟く。ギラついた目の光が、かなりヤバかった。

処刑方法を延々と説明しながら、できれば抵抗してほしい、と彼は考えていた。いずれにせよ半殺しは確定だが、そのほうが多くの苦痛与えられるからだ。

武哉は少し距離を取ってその様子を眺めていた。こんな危ない奴だったのか、と彼は考え、心の距離をかなり大きく取った。

こうして、ひとつの友情が壊れようとしているとき、和麻が現われた。

何ひとつ警戒せずのこのこと―――と彼らには見えた―――歩いてくる和麻に、武哉は気取った声をかける。

「久し振りだな、和麻!」

だが、和麻はその足を止めることなく、瞳だけをちらりと向け何事もなかったように歩き出した。

まるで、路傍の石を見たかのようだ。


「用件はわかるな?」

その態度に武哉は殺意を覚えながらも、血走った目で炎を放とうとする慎吾を抑え言葉を紡ぎだした。

だが、和麻は武哉の言葉を聞いてる様子も無いが、武哉は続ける。

「昨日の夜、神凪の術者が三人殺された。殺したのは風術師だ」

「・・・」

和麻は足を止めるが、何の反応も示さない。

沈黙が周囲を包んだ。夕暮れの並木道に心地よい風が駆け抜け、紅葉が軽やかに踊る。

和麻は再び歩き出した、だが次の瞬間

「くっくっくっ、そーか、ついてきちゃくれねーか。それじゃあ、力ずくで引きずっていくしかねーよなぁっ!」

絶叫と共に、慎治の周囲を紅蓮の炎が踊った。

爆音と共に出現した炎は、慎治の身体に絡みつくが、身体や服を焼くことはない。慎吾はむしろ、心地よさそうに目を細めている。

纏わりつく炎を撫で回しつつ、慎吾は喜悦に唇を歪め、宣告した。

「しゃべれれば問題ねーって話だからよ、手足は全部焼きつくしてやる。軽くなったほうが持ち運びには便利だからなぁ。今は殺さねー。けどよ、お前もそんなみっともねー格好で生き恥さらしたくねーだろ?だから宗主のご用件が終わったら殺してやるよ。一週間くらいかけてな。たぁっぷり時間をかけて、生まれてきたこと後悔させてやる。
思い知らせてやるぜ!慎治を殺しやがったてめえが、のうのうと生きてるなんざ許されるわけがねえんだってなぁぁっっ!!」


和麻は力を抜いて立ったまま、慎吾を眺めている。どうやって神凪の炎に対抗する気なのか、その姿からは読み取ることはできなかった。

「死ねやおらあぁっ!」

「ま、まて、慎吾!」


慎吾は武哉の静止も聞かず炎を放った。

否放とうとした。

だが、これが間違った、次の瞬間。

どごぅん!

慎吾の体が宙をまった、まるで、トラックニ跳ねられたかのように。

(な、何だ?一体何が・・?慎吾はいったいどうしたって言うんだ)

武哉は何が起きたか分からず呆然としていた

呆然としている武哉を無視し和麻は再び歩き出した。

和麻が歩き出したと同時に木立の一本がズレた。音もなく切断された木が、断面に沿って滑り落ちる。
身を隠すことも忘れ、呆然としている

だが、ズレた木が地面に倒れ『ずどーん』という音がした。

見張りの術者と武哉は戦慄と共に悟った。

おびき出されたのは自分たちだと。我々こそが、狩りの獲物だったのだと―――





メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.6 )
日時: 2005/06/16 16:55
名前: スレイヤー

同時刻

「まったく、お父様も心配性よね。あたし一人で充分だって何度も言ってるのに、いつになったら一人前だって認めてくれるのよ。そんなに私って信用できない?」

「宗主はとっくにお嬢を認められているさ。それでも一人娘を心配するのは父親として当然のことだろ?」

不満たらたらの綾乃を、四十代半ばの男が宥めていた。
横浜、山手町にある某神社で綾乃は解けかかった封印の補強を命じられた。

奇しくも先日、和麻が除霊を行なった場所の目と鼻の先だったが、綾乃がそれを知るはずもない。

現地に赴いてみれば、封印の劣化は予想以上に進行していた。綾乃は即座に再封印を断念し、封じられたものを滅ぼすことに決めた。

ためらうことなく封印の壺に張られていた呪符を引き剥がす。

曰く『そのほうが手っ取り早い』と。

自分の実力に絶対の自信を持っていなければいえない台詞であるが、同行する二人の男達も、それが分不相応な自信ではないと知っていた。

無論、重悟も知ってはいたが、それでも心配せずにはいられないのが親心と言うものだ。

重悟は親馬鹿丸出しでそう考え、常に二人以上の術者に綾乃を護衛させていた。

「公私混同はするなって、いっつも言っているくせにさ。自分勝手だと思わない、雅人叔父様?」

まだ不満を抑えきれずに、綾乃は男―――大神家当主の弟、雅人に愚痴る。

「宗主とて人間なんだ。そう杓子定規に考えることも無いだろうよ」

雅人は骨太な笑みを浮かべて笑い飛ばした。分家の人間にしては随分遠慮のない口の聞き方をしている。しかし綾乃の方もそれを咎める様子はない。

この男―――大神雅人は、兄をはるかに凌ぐ力を持ちながら、当主の座を巡って争うことを嫌い、チベットの奥地まで修業の旅に出たという変わり者だった。

日本に戻ってきてからは『綾乃のお守り』を以って任じている。重悟の信頼も厚く、綾乃の初陣からずっと護衛役を続けてきた。

綾乃もまた、この豪放磊落を絵に描いたような親戚を気に入っている。周り中からお姫様扱いされていた綾乃にとって、雅人の媚びる事のない態度はとても新鮮で、心地よく感じた。

今では『雅人叔父様』『お嬢』と気安く呼び合い、家族同然の間柄になっている。

「若い術者に勉強させてやっているとでも考えるんだな。なあ武志・・・武志?」

「は、はいっ!?」

当然と綾乃に見惚れていた若い術者――大神武志は、叔父に繰り返し呼びかけられ、ようやく我に返った。

「聞いてなかったな・・・お嬢に見惚れるのはいいが、気を抜くなよ。封印はもういつ解けるか分からないんだぞ」

雅人のからかい混じりの問いかけにムキになって反論する武志

「き、聞いていましたとも!叔父上のおっしゃる通りです!綾乃様の戦いぶりを見せて頂ければ、これに勝る喜びはありません!」

綾乃の前で恥を書きたくない一心で、武志は必要以上に力を入れて叫んだ。

彼女を見つめるその目には、尊敬を通り越して崇拝の色さえ浮かんでいる。

これは特に異常な反応ではなかった武志と同世代の術者にとって、綾乃は女神にも等しい存在だった。

そんな姿を間近くで見ることのできる護衛の任務を望まない者など皆無と言ってよかった。

「そーゆーもん?」

「そうです!」

綾乃に話しかけられた喜びを、武志は全身で表した。綾乃はこういう感情を向けられる事を好まない。

自分がこのような世界でさえも『普通』とは隔絶した人間であることを思い知らされ、いたたまれなくなるのだ。

しかし、そうした思いを理解しろといっても無理であろう。

武志は純粋に、自分よりも遥かに強大で美しい存在に敬意を表しているだけなのだ。

「ま、いいけどね・・・と、そろそろかな」

妖気の高まりを察知し、綾乃はその場で半回転して本殿に相対した。

プリーツスカートの裾がふわりと広がる。

これから立ち回りを演じるというのに、綾乃はなぜか高校の制服を着ている。

高校から直行したため―――ではない。

まじめに高校生をやっていれば、最も多く着る服は当然制服になる。

そこで重悟は制服を特注し、能う限りの呪的防御をかけたのだ。

素材は気を通しやすい最高級の絹。それも糸をつむぐ時点から気を込め続けたという、途轍もなく高価な代物を使っている。

金と手間隙を惜しみなくつぎ込んだ結果、芸術品と言うべき高校の制服ができあがった。

しかし費用もそれにふさわしいもので、これ一着で車が買えるどころではなく、はっきり言って豪邸が建つ。
−そんな金があるなら、募金をしろ−

綾乃はいたくこの制服を気に入り――性能云々以前に父のプレゼントだからという理由のためだろう――常にこの服で戦い望んでいる。

おそらくは世界で最も高価であろう戦闘服に身を包み、綾乃は崩壊寸前の封印を見据えた。

細く長い呼吸を繰り返し、体内に宿る力を活性化させる。

ばぁん!

清冽な拍手の音が空間を振るわせる。合わせた掌を引き離すと、両掌の間を炎の線がつなぐ。綾乃は炎の線を右手で掴み、それを引き抜くように横薙ぎに振るった。

一メートルほど伸びた炎の線は、瞬時に物質化し緋色の剣を形作る。

鮮やかな緋色の刃は、反りの無い諸刃の直刀。黄金の炎を纏い眩い輝きを放つ。

この剣こそが神凪の至宝・炎雷覇。神凪の始祖が炎の精霊王から承ったと伝えられている

剣を振るう彼女の動きは何万、何十万回と同じ型を繰り返し修練を続けたものだけに許される、完成された動きだった。

その直後、ついに臨界を迎えた壺が鈍い音を立てて砕け散る。破片が地面に落ち始めるが、それが落下し終えるよりも早く、壺の中から白いものが綾乃目掛けて射ち出された。

綾乃は真っ向から炎雷覇を振り下ろし、それを迎撃する。熱したフライパンに水をかけたような音をたてて、蒸発する白い物質。

「粘液・・・?」

綾乃はその物質を見て小さく呟く。

前方に目をやると、本道の暗闇に、いくつかの光点が灯っている。それはゆっくりと前進し、己の姿を白日の下にさらけ出す。

「うわ・・・」

綾乃はそれを見て思わずうめき声をもらす。

それは巨大な蜘蛛の化け物。数えるのも嫌になる複数の目。全身に汚らわしい剛毛を生やし、8本以上の足を有する。さらにはカサカサと長い足を動かしている。
見るものに生理的嫌悪を引き起こさせる相手。

「土蜘蛛か・・・手を貸そうか?」

「けっこお」

綾乃は即座に雅人の助けを断る。気持ち悪いのは確かだが、泣き言を言える立場ではない。

何よりも父に失望されるのが怖かった。それに比べれば、クモやゴキブリと戦うことなど何の程もない。

(おいで・・・)

彼女は炎の精霊に呼びかける。肉声は必要ない。綾乃の意思に応え精霊は自ら進んで集い、炎雷覇に飛び込んでいく。刃の纏う炎が、一層輝きを増す。

意思の届く限りの精霊に綾乃は助力を請う。ほかの術者のように命令することはしない。

それがどれほど傲慢なことか、父に何度も教えられている。

『我々は対等なのだ』と、重悟は常にそう語る。

精霊は世界の秩序を守る存在。神凪一族は精霊王との契約により、精霊の協力者の任を負ったのだと。

綾乃は知っている。自分の力が借り物に過ぎないのだと。

彼らは皆力を借りているのだ。強大なその力を。この世界の秩序を守るために。

世界の『歪み』である魔性を封じ、滅するために、一時的に与えられたものに過ぎない。
故に命令はしない。そんなことをする必要は無いとわかっているから。

正しい願いに、精霊は必ず応えると知っているから。
世界に対する敬意を忘れないように、強大な力を得たと錯覚して傲慢にならないように、綾乃はいつもこう呼びかける。

『お願い、力を貸して』と。

「す、すごい・・・」

武志は呆然と呟いた。膨大な精霊が綾乃の下に集まっていく。自分が支配していたはずの精霊まで、根こそぎ持っていかれた。

初めて目の当たりにする宗家の力は、まさに桁違いと言うしかないものだった。

「ああ、すごいだろ?」

我が事のように誇らしげに、雅人は笑った。

「さっきはああ言ったが、勉強になんてなるわきゃないんだよな。俺達がどう頑張ったって、あんなことできっこないんだからよ」

叔父に返事をすることも忘れ、武志はひたすら綾乃だけを見ていた。

そんな妖魔の存在に気づかない綾乃は足を止め、意識を集中させた。

炎雷覇は呪法具である以前に剣である。やはり剣として使ったときにその威力を最も発揮する。

(ちまちまやってても埒があかない。一撃で決める!)

冗談に振りかぶった炎雷覇を、綾乃は渾身の一撃で振り下ろした。

金色の炎が―――最高位の浄化の炎が、土蜘蛛から吐き出された大量の糸をものともせず焼き払い、土蜘蛛本体へと迫る。

ごぅんっ!

爆音が轟き、土蜘蛛が炎に包まれる。

「やったね」

炎が消えていく中、自信満々に言う綾乃の目の前に、白い繭のようなものが映った。

思わず目を瞠る綾乃の前で、それはピキピキとひび割れていく。

ぱりんっ
薄いガラスが割れるような音をたてて繭が割れ、その中から傷一つない土蜘蛛が現れる。

おそらく己の作り出す糸に霊気を遮断させる性質があるのだろう。それで自分の身体を覆い隠し、浄化の力の浸透を防いだのだ。

「やって、くれるじゃないの」

綾乃は抑揚な口調で言った。一見、平静のように見えるが、よく見るとこめかみが引きつっている。

今の一撃は決して手加減したわけではない。それを完全に防がれて、綾乃のプライドは痛く傷ついていた。

「たかが虫ケラの分際で!!」

綾乃の怒りに応え、さらに膨大な炎の精霊が集結する。
炎として具象化してはいないものの、境内の内部は火山の火口にも匹敵するほどの精霊に埋め尽くされていた。

「さあーて・・・覚悟はいい?」

怒ってはいるが、綾乃は我を忘れてはいない。冷静に怒りをコントロールし、力へと転化する。

強く、強く精霊に呼びかける。今度は全方位ではない。細く絞った意志を、特定の場所の特定の精霊に向けて解き放つ。

綾乃は炎雷覇を身体の正面で垂直にかざし、身長に狙いを定めた。深く息を吸い、呼吸と共に鋭い気合を放つ。

「はあー!!」

直後、土蜘蛛の体内で炎が弾けた。膨らんだ腹が裂け、小さな火柱が立つ。

その小さな炎を目印に、境内中の炎の精霊が殺到する。炎は爆発的に増大し、土蜘蛛を今度こそ灰も残さず焼き尽くす。

あとには何も残らなかった。土蜘蛛の身体の破片はおろか、撒き散らしていた妖気も跡形もなく浄化されている。

今までにここに妖魔がいたという痕跡さえ残されていなく、神社らしい清浄な<気>が境内に満ちている。

外からの攻撃に強いなら、中から責めれば良い。
言うのは簡単だが、やるのは必死である。

この世界のあらゆる現象に、精霊は関与している。もちろん生命活動にも。

体内に水分を有する生物は、水の精霊の影響を受けずにはいられないし、熱量を持つものは皆、体内に炎の精霊を有している。

例え妖魔でも物質化してしまえば、この法則からは逃れられない。

しかし一般的に、他者の体内に在る精霊を制御するのは不可能であるといわれる。

生物の生存本能は無意識に近くなるほど強く、生命の源とも言うべきものを他者に操作させることを許さない。
並みの天才ではこうした精霊を操ることは叶わない。だが、いつの世も理論限界と言うものを鼻で笑い飛ばす人間がいる。

「ふふんっ。ざっとこんなもんよ」

しかしそれでも彼女は満足である。得意げな笑みを浮かべ、綾乃は振り返る。

「さすがだな、お嬢」

「さすがは綾乃様!!」

二人の護衛はその強大なまでの力をただ見て驚くしかない。自分達では絶対にこんなことは出来ない。

「まあね」

褒められたことがうれしいのか、綾乃はさらに得意げな笑みをする。

「さーて、帰りましょうか」

もはやここに用はない。任務も達成したし、あとは帰って宗主である父に報告するだけである

「ああそうだな。しかし、これで神凪も安泰だな」

「そうです。綾乃様が宗主になれば、神凪はさらに発展します!!」

二人は彼女に大きな期待をしていた。まだ十六歳でありながら、神凪では三番目の実力者。

さらに炎雷覇まで持っている。彼女に勝てるものなどこの世に何人いるか。

彼らの知る限り、重悟か厳馬ぐらいしかいないだろう。

だが彼らは知らない。世界の広さを。

自分たちが選ばれていると思っている彼らには、決して届かない領域にいる者たちが数多くいる事を。

「そうね、とりあえず帰りましょう。お父様に報告しないといけなし」

だが、そんな事を『世界』を知らない綾乃は、さも当たり前のように言う、

帰り支度をする三人は急に弾かれたように、構えた。

なぜならこの境内を強大な妖気が取り囲んでいるからだ。それも並みの妖気ではない。

だが、何度も死線を超えた超一流の者達ならば、もっと早くに気付いていた。

「な、なに!?」

彼女は確かに力は強い。だがまだまだ経験不足だ。

反射的に構えたはいいが何がどうなっているのかは、理解していなかった。

「叔父上。これは一体!?」

武志も一体何が起こっているのかを正確に判断できない。
唯一、この場で落ち着いているのは雅人ぐらいだ。だて、年端とっていない。

「二人とも落ち着け!!どうやら、とてつもない相手がきたようだ」

その言葉に綾乃はハッとなり思い出す。
自分達を恨んでいるであろう者のことを

「じゃあ、和麻さんが来たっていうの!?」

綾乃は父から聞かされた容疑者の名前を出す。だがそれ
は間違っていた。

「クくくくくくくくく」

何処から嗤い声が聞こえた

「出て来い!!」

綾乃の声に殺気が浮かぶ。

その声に反応したのか妖魔は姿をあらわした

「我が名は怨叫、和麻との契約によりその首、貰い受ける」

言葉と同時に黒き風の刃を放った。

綾乃はは炎を纏うと、何とか対抗した。

その威力に驚き、周りを見渡すと完全には遮る事が出来ずに傷を負った雅人と血を流し膝を突いている武士がいた。

まあ、綾乃でさえやっと塞いだほどの風刃である。
雅人はともかく、未熟者の武士には無理でもしかたがい

妖魔はそれを見ると、風に乗り外に飛び上がり。消えた
明らかな挑発である。

「どうするお嬢?。明らかに誘ってるようだが?」

「罠でも構わない。あんなものを野放しになんかできないわよ!」

「分かった。」

「お、俺も行きます」

武志は気丈にもいうが、雅人に止められた

「だめだ武志、その傷では、足手まといになる。だから、お前は本家への連絡のため、此処に残れ」

「わ、わかりました」


そういうと雅人と綾乃は、妖魔を追い走り出す。

(絶対に逃がさない。必ず滅ぼしてやる!!)

綾乃の考えに応えるように、炎雷覇が更に眩い炎を吹き上げた。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.7 )
日時: 2005/06/16 16:58
名前: スレイヤー

上空に、いきなり妖気が湧いた.

「な、なに」

和麻は驚いて空を見る。洒落にならない力が一点に宿る。

「ちっ!」

とっさに風を呼び迎撃するが、力が足りなかったため撃ち負けた。

結果防ぎ切れなかった攻撃が風牙の術者、慎吾、武哉に襲い掛かり致命傷では無いが、命の危険があるほどの傷をあたえた。

「ち、ちょっと待てえぇぇっっ!!」

和麻は思わず叫ぶ。

(不意を突かれた?この俺が?)

不意打ちを受けるなど初めてのことだった。それもよりにもよって風の精霊に。

何者に召喚されたにせよ、これほどの風の精霊が集まれば、和麻に感知されないはずはない。どれほど優れた術者であれ、風で和麻を欺くことはできない。技量云々ではなく、『ルール』でそう定められているのだ。だが現実にありえない事態が起こっている。

即座に無駄な思考を中断し、上空のものに意識を集中し上空のものに注意した。

「なんだ、ありゃあ?」

遥か上空に影がある。


その姿を鮮明に見ようとした瞬間、突然その姿が消えた。

「ちょっと待てぇ!お前ら一体何考えてやがる!」

直之は風の精霊たちに向かって吠える。これは明らかな契約違反だ。だが、精霊たちも戸惑った声を上げるばかりで、誰も妖魔の居場所を教える者はいない。

「一体、どうなってるんだ・・・」

和麻は力なくぼやいた。とりあえず結界を解く。

精霊が契約に背く?―――ありえない。

和麻とて、他人からそんなことを聞けば相手の正気を疑うだろう。それくらいに非常識な事態が起こっていた。

全ての風の精霊は直之に従う。『彼の者』との契約は、必然的にそうした意味を持つ。例外は――

「あったな・・・」

(師匠の分けが無い。そうすると、俺と『同じ』やつがいる?止めてくれよ・・・)

突然、莫大な炎の精霊が向かってくる。人間のようである。数は・・・二人。

(ち、うぜえな、今度はイフリートでもでたのか?)


言うまでもなく、和麻の予想は外れていた。

現われたのは二人、その片方、紅蓮の劫火を従え、眩いばかりの瞋恚の炎をその目に宿し、かざす右手には炎の剣

「和麻ぁぁぁーー!!」

忠告も警告も無く行き成り切りかかる。

斬!

和麻はとっさに避けた。

(炎雷覇をもっているということは・・・あの女は宗主の娘か?)

冷静に観察した。戦いにおいて最も重要なことは冷静でいること、綾乃のように直ぐに冷静さを失うようでは、術者としては三流もいい所だ。

超一流はたとえ、目の前で親兄弟が殺されても、冷静でいる。

そうでければ、生きていけないからだ。

転がっている2人もそうだが話し合いというものを神凪の人間は分かっていない。あれでは完全に自己主張である。

「取りあえず、行き成り何なんだ?事と場合によっては、ただでは済まさんぞ」

行き成り切りかかって来たので和麻としては殺しても良かったのだが。相手は宗主の娘であるし溺愛していた、殺すのはどころか傷つけただけで宗主が切れるだろう。

和麻にとって宗主はただ一人優しく接してくれた人間である。

もしできるなら、無意味に喧嘩を売つもりはなかった。

だが、そうは問屋が卸さなかった。

「武哉!」

雅人が地面に血まみれで倒れている武哉と慎吾を見つける。

「俺がやったわけではい」

半分本当で半分は嘘だった、確かに『武哉』はやってはいないだが、慎吾をやったのは和麻である。

しかし、先ほど妖魔に襲われた2人には和麻の言葉は届かなかった。

先ほどの妖魔の言葉ですでに和麻を妖魔と契約したと信じ込んでいる。

そんな和麻の言葉に聞く耳を待たなかった。

さらに、地面に転がる2人を見た2人は完全に頭に血が上っていた。

「貴様、神凪に恨みを持つのは分かるが妖魔と結託してまで復讐するとはそれでも人間か!?」

神凪は生まれたときから精霊術師であり、そしてその力を魔を払うために使う。

その神凪に生まれた人物が・・・魔を払う一族のものが魔を受け入れた。

雅人はそれがどうしても許すことができなかった。

だが、雅人の考えは間違いだ、勘当をされた時点で、和麻と神凪はなんの関係もないのだから。悪魔に魂を売ろうが、仙人になろうが、和麻の勝手である。



十数人の人間が走ってやってきた。それは神凪の術者たちだった。

その誰もが和麻に殺気を向けている。その集団はどんどん和麻達の方に近づいてくる。
全員が和麻を取り囲むように周りを固める。

いいかげん、めんどくさくった和麻は全員を殺すことにした。

だが、その機会は永遠に来なかった

なぜなら、

この世で、もっとも、憎い男が現れたから・・・

「お前が契約した妖魔。あれは何者だ」

第一声がこれだった。

「何を言っているのか全く分からんぞ」

「あんた、まだ白を切る気!!」

綾乃が大声をあげる。が、和麻にしてみれば本当に訳がわからなかった。

「知らないものは、知らん」

「しゃべる気にはならないか・・・」

「もう一度、言うぞ。知らん」

「もういい。貴様はすでにわが息子でもなんでもない。だがせめてもの情けだ。この私の手で葬ってやる」

厳馬は手に凄まじいまでの炎を顕現させる。分家や、綾乃の比ではない。

重悟が交通事故で右足を失ってからは、彼が神凪最強の術者となった。

その厳馬の炎を喰らえば、どんな妖魔だろうが倒せる。それが神凪のほとんどの者の共通認識だった。

和麻は此処に来て神凪と前面戦争をする事に決めた、いい加減疲れたからである。
よって戦力をできる限り減らすことにした。

その場にいた全員が、その凄まじい精霊に驚いた。

和麻が集めた風の精霊は大型の台風にも匹敵するのである。

「おもしろい。所詮妖魔に借りた力など、この私には効きはしない」

その言葉を合図に和麻は風を放出た

凄まじい烈風が神凪の術者たちに襲い掛かった。

厳馬はとっさに炎を呼び結界を作ったが、余りの強さの為に広範囲の結界を作ることがずにいた。
結界に入れたのは数人だった。

烈風が収まり、厳馬は辺りを見渡すが和麻の姿は何処にも見当たらなかった。

厳馬の結界に守られていた数人はかすり傷程度だったが、他の者達は体の至る所を切り裂かれ、痛みにのた打ち回っていた。

綾乃は呆然とするが直ぐに正気を取り戻した、辺りを現状を把握すると、すぐさま、傷ついた者達に駆け寄って、応急手当を始めた。

それに続き、無事だった、雅人を含むほか数名もすぐさま駆け寄り治療を始めた。


そんな中、厳馬は一人、今まで和麻のいたところに足を運ぶ。

そして膝を下ろし、その場所をまるで何かを探るようにゆっくりと霊視する。

(これは!?・・・あいつめ・・・・)

厳馬は、誰にも気がつかれなかったが、その場で唇をゆがめていた。

その表情はどこか誇らしげだった。まるで息子の成長を喜ぶ父親のように・・・

メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.8 )
日時: 2005/09/13 21:54
名前: スレイヤー

屋敷は静寂に包まれていた。

まるで、無人の廃屋のような錯覚を覚える。

だが、今神凪本邸には一族のほぼ全員が終結していた。

彼らは皆、見つからぬように息を潜め、さりとて1人でいる勇気も無く大広間にて集まり震えている。
彼らが恐れるのも無理は無い。

コンビを組めば宗家に準ずるとまで言われた慎吾と武哉が破れ、神凪の術者十数人と綾乃と雅人さらには、厳馬まで揃っていながら、和麻に遅れをとったのだ。

もし和麻がせめて来たら?と誰もが戦々恐々としていた。

そんな中唯一まともに話をできる人物達がいた。
それは

「そうか、では和麻は犯人ではなかったか」

「はい」


宗主重悟と厳馬である

彼らは今後の対策も含めて、話し合いを行っていた。
先ほどは、武士の報告で慌てて、和麻討伐の兵を差し向けた。

だが、冷静になって考えれば疑問とすべき点がいくつもある。

一つ妖魔と契約しながら独自で行動していたこと。なぜ妖魔と別行動をとっていたのか?

二つなぜ分家の二人も殺さず生かしておいたのか?
なぶり殺しにするつもりだったとしても、二人を倒してから綾乃達が到着するまでの時間何をしていたのか?

三つ綾乃への行動。最後の最後で和麻が見せた力は間違いなく綾乃を超えていた。 なぜすぐさま、綾乃を殺さなかった?

四つ和樹が使った精霊である。
炎術士の霊視能力でも、妖気の痕跡は全く確認できなかった、もし和麻が妖魔と契約しているならば妖気が必ず残るだろう。

だが、そこに在ったのは蒼き浄化の風
そして、厳馬は理解せざるを得なかったのだ。和麻は犯人ではないと。

「それで、あの二人の容態は?」

重悟は話を進める。

「命に別状は無いそうです」

報告をしている厳馬の表情はとても誇らしげだった。

「本当に嬉しそうだな厳馬。ならばなぜ、和麻を手放した?」

重悟はついに、六年間聞けずにいたことを尋ねた。

あまりにも不器用すぎて誰にも気づかれなかったが、厳馬が和麻を愛している事を重悟だけは薄々気がついていた。

「私は神凪の人間として生まれ、生きてきました。ほかの生き方は選べません・・・私の息子にももまた」

「だから自分の手の届かない所まで遠ざけたと?好きな道を選ばせるために?だが何も身一つで放り出さなくてもいいだろう。野垂れ死んだらどうするつもりだったのだ?」

「ふっ・・・何をバカな、私の息子ですぞ!」

「あーそーかい」

自信満々な口調だった。それほど厳馬は和麻を評価していた。

だが、この言葉を使う資格などなど無いという事を厳馬は理解しているのだろうか?

勘当を言い渡し、さらに、『私の息子は煉ただ1人、和麻なる者はおりません』
とまで、言い切っている男が、使っていい言葉ではない。

「で、これからどうする?和麻が犯人でないとすれば、真の敵はてぐすね引いて待っていることになる」

おそらく、神凪と和麻がぶつかり合い弱るのを今か今かと待っているのであろう。漁夫の利を狙うかなりの奴等である。

さらに相手は妖魔まで使い、和麻を犯人に仕立て上げた相手だ。策略を好む集団だろう。

「私はこれから一度、和麻と会ってきます。話し合いの余地があるとは思えませんが、しないよりはましでしょう」

「それは認められん」

重悟はすぐさま否定した。だが

「なぜです!このままでは真の敵の思う壺。しかし、和麻を味方につければ、形勢はこちらの圧倒的有利になります!」

重悟の答えに厳馬は珍しく反論した。
和麻はすでに自分が本気を出しても、勝てるかどうかわからないほどの術者に成長している。もし敵に回れば、神凪の滅亡は確定だ。

だが、厳馬は忘れている和麻に勘当を言い渡したのは自分だという事を、知ってはいても『理解』はしていない。

更に和麻は神凪で侮蔑され罵られ虐められ挙句の果てには勘当された身だ。一族を恨み憎みはしても、力を貸すなどありえない。

「お前のことだ、売り言葉に買い言葉で和麻を挑発すかもしれんし、第一お前は昼の時点で和麻に向け攻撃した。耳を傾けるとは思えん、さらに言うなら、仮に私ならば、絶対に力など貸しはしないぞ」

「確かに・・・」

重悟の指摘に厳馬は苦笑するしか出来なかった。内面的にはともかく、表面上は父親らしいことを和麻に何一つしてはいない。

それどころか嫌われることばかりしている。敵対した今、和麻が厳馬を攻撃することを躊躇するとは思えない。

「ですが、あれの誤解を解くことならば・・・」

「それには賛成だが・・・可能か?」

「やってみなければわかりませんが・・・」

最悪、力を貸してもらわなくとも、誤解を解き攻撃してこないよう言うことぐらいなら出来る。

誤解と言ってもこちらから仕掛けたのだから、誤解も六回もない。

そもそも誤解というのは―事実や言葉などを誤って理解すること。思い違い。

「真意を―する」「―を招く」である・


和麻は何を誤解しているというのか、彼らは、分かっていうのだろうか?

神凪が和麻に攻撃したのは、誤解のよちどころか、事実であり、真実である。

だが、それでも、何とか和麻に攻撃をしないように頼まなければならない。

そのためならば土下座でもしよう。プライドなど今のこの状況では不要である。

ここで謎の敵と和麻の二つから攻撃を受ければ、いかに神凪でも敗北は必死。

だが、彼らは知らない、和麻が既に神凪を滅ぼす気でいることを、闇に紛れて、静かに1人、1人消していく気でいることを。

そんな和麻の考えを知らない、重悟はしばらく悩んだ後言った。

「・・・よかろう、ただし、条件がある。今此処で、まずは電話で連絡をとること、それが、絶対条件だ」

行き成り押しかけたのでは、和麻に余計な刺激をあたえかねない。
そう言う意味では、この考えは大正解である。

「わかりました」

厳馬は了承し、電話を取った、自分どころか神凪一族すべを憎んでいるであろう、息子に連絡をとるために。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.9 )
日時: 2005/09/07 23:26
名前: スレイヤー

横浜ランドマークタワーの六十七階、横浜で一番空に近いホテルのロイヤルスイートで、
和麻は優雅に食事をとっていた。

神凪と完全に敵対をすることを、決めた和麻であるが、これといって特別何かをする気は無かった。

無論仕掛けてくるなら、別であるが、彼にしてみれば、妖魔と神凪一族が戦い、共倒れしてくれれば、それで構わない。または、弱ったところを襲撃し双方を消せばいいだけなのだから。

奇しくも、妖魔と同じ考えである。
が、それは、正しい考えだ。

神凪一族にしてみれば、『卑怯』だの『汚い』だのと言うだろう。

が、戦いなのだ!戦争なのだ!!殺し合いなのだ!!!

正々堂々で無くても構わないのだから。

この世に100パーセントなどという事はありえい。

例えば、プロの格闘かと素人の子供が戦ったとすれば、誰しもプロが勝つと思うだろう、

なぜなら、それが『当たり前』だからだ。

が、戦う直前に『『もし』』急に病気で倒れたら?
もし、殴ろうとして、とっさにしゃがまれて、それで転んで頭を打ったら?

例え、プロでも負ける。

人が聞けば、何をバカバカしいと思うかもしれないし、1+1は百パーセント2なるじゃないかと言う人もいるかもしれないが

確立とすれば存在するのし

数学者たちが調べた結果ならない場合もあるそうです。


注意!!
此処から先は小難しい話なので読みたい人だけよんでください。

ここで紹介しますと、これは集合の概念から作ります。従って、数字の前に集合論ありきともいえます。 まず空の集合を考えます。これは何も無いのでゼロと考えます。 次に空の集合自体の集合を考えます。 そうすると(結果的に)集合は1つしかないので、これを「1」と定義します。更にその集合の集合を考え、これを「2」と定義します。 学生時代に習った「数学的帰納法」を用いると(1で成り立つものを n と n+1 で成り立てばどのような数字でも成り立つと言う方法で、この自身の証明はちょっと面倒)、すべての数字が定義できます。 もっとも帰納法を使うときはまだ「1」とか「n」とかが定義されていないので、別の表現が必要となりますが。

こうして、0,1,2,3,4,5...... と定義できれば、マイナスの数字は x+a=0 (a>0) の解として x=-a として定義しなければ方法がありません。 有理数は ax=1 (a not 0) の解として x=1/a として定義されます。また、先ほどのパイのような超越数もありますが全て実数の範囲内です。最後の虚数も x**n=-1 の解として定義されて、実はこれで終わりなのです。 ここが実に不思議なところで、実数と虚数を含む複素数を使ったいかなる方程式の解としては複素数で十分なのです。従来、元の数理体系に含まれない数字が出現すればそれは新しい数字として定義して、自転車操業をしてきたのですが、複素数に至ってもう必要は無いのです。
単に1,2,3,4 と言う数字から出発している数学にも、まだまだ未解決の問題が多くあって、もまだ残っています。 その一番目は「連続体仮説」で簡単に言うと先程言ったような数字が本当に連続してキチンと存在しているか? 抜けや重複はないのか? と言う事。 2番目は自明と思われていた「算術の公理系の無矛盾性の証明」です。 つまりそれまでは矛盾するかもしれない理論体系の中で理論構築を行って来た訳で、言うならば砂上の楼閣であった訳です。 すべての人が信じていて、後は証明だけと思っていたこの無矛盾性が実は証明できない問い事がゲーデルの「不完全性定理」によって「証明」されたのです。極端に言うと1+1=2も時と場合によっては成り立たないと言う事になる訳です。当時は人間の理性の限界を示すものと捉えられて、大いに話題となりました。 現在ではこれは、人間の理性や理論体系の限界を示すものでは無くて、可能性の大きさを示すものと考えられています。

これをしっかり読んだ方は大変お疲れ様でした。

引き続き 風の聖痕 蒼の行方 をお楽しみ下い。


競馬で超大穴が来て百円が五十万になる人もいる。
宝くじで、ロトを『一枚』買い、それが、当たり賞金四億円貰った人もいるのだ。

プロが子供に負ける確立も存在はするのだ。

それは、戦いにおいても違わない。むしろ、戦いの方が、色々な、不確定要素が存在する。

だからこそ、常に全力を尽くすとともに90パ−セントの確立を1パーセントでも上げる努力をするのだ。

なぜなら、術者同士の戦いに『もし』は存在しないのだから。与えられた結果(死)
が唯一絶対の結果なのだから。

そう言う意味でも、和麻や妖魔のとっている作戦は素晴らしいのである。

そんな作戦もあってか、その時が来るまで、和麻は貰った金で怠惰に生活をすると決めていた。
しかし、そうは、問屋が卸さなかった。

和麻の携帯が鳴り出した。

和麻は嫌そうな顔でテーブルに載っているソレを眺めた
和麻はこの電話番号を知っている人間を1人1人思い浮かべては、現実逃避に励んでいた。



ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブル、ルブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル

「ああー、ウルセー」

ついに和麻は根負けして電話を取る。

「誰だ?」

・・・少なくとも、電話に出るときの対応ではないが和麻にとって、この番号を知っている人間なんぞこの対応で十分と考えているだけなのだが。

不機嫌極まりない声が、電波に乗って相手の鼓膜を震わせる。

「私だ」

返事は途轍もなく無愛想だった。和麻は電話に出たことを心底から後悔した。

昼間の公園に続き、再び和麻はこの世で、この世界で、もっとも嫌いな男の声を聞く羽目になったのだから。

「ワタシさん、ですか?変わったお名前ですね?どこかでお会いしましたっけ?」

「ふざけるな、馬鹿者」

「ふざけてるのはテメーだ、俺にはワタシなんて知り合いはいねーんどよ」

ピ・・・ツーツーツーツーツーツー・・・
和麻はそう言うと電話を切った。
普通、『私だ』・『俺だ』何て言い方はひたしい人にしか使わない。否、親しい中にも礼儀ありである。
この世で、最も憎い人間にこんなこと言われた普通の人間は切れるであろう。

ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル

電話を切った直後また掛かってきた。
しかし、相手が誰だかわかったなら、電話に出る必用などない。

和麻は迷うことなく、電源を切った、

部屋に静寂が戻った。



それから、しばらくし、今度は部屋にある備え付けの電話がなった。
ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル、ブルブルル

9時半を回っていることもあり、和麻はラストオーダーの確認の電話かと思い迷わず電話にでた。

「はい」

しかし、そうでは無かった。

「神凪 厳馬ですが」

今度はしっかりと礼儀をもって接してきた。
和麻としては、また、切っても良かったのだが、ホテルに直接来られてた面倒だと思い
しょうがなく、対応した。

「何のつもりだ?俺はお前なんぞに話すことなど何も無いんだが」

和麻は憎悪を込めて言葉を放つ。

「・・・お前の誤解を解こうと思ってな」

和麻の相手にしないし、電話の相手は一方的に言いたいことを言う。
内容は呆れるほど下らない物だった。

「誤解?どんな誤解か聞きたいな」

和麻は率直に尋ねる。

別に興味があるわけではない、ただこの男の声を聞いていることが不愉快なだけだった。

この不愉快な時間が早く終わって欲しかった故に彼は話を進めようとする。

「神凪にお前に対し敵対する意志はない。だからお前も神凪と戦う意志を放棄してもらいたい」

素晴らしい、素晴らしい意見だ!!

あまりふざけた意見で!

あまりなめた意見で!


素晴らしすぎて反吐が出る!!!!


「ふざけた事言ってんじゃねー、そもそも貴様らの方から仕掛けただろう。それにこちらは戦う気がないことを弁明しているが、無視したのは神凪だろう」

和麻の解答はNoだ。こんなんで説得できると思う方が間違っている。

「俺にはお前らに従う理由なんてねーんだよ」

「・・・それは、神凪に敵対すると判断してかまわないんだな?」

和麻の言葉は完全に神凪を敵視し、戦闘も辞さない意思を表明している

「今さら、何言ってやがる、俺にとってお前ら一族は、生まれたときから敵なんだよ!!」

和麻は言い切った。
炎術が扱えない和麻に神凪がこれまでに和麻に何をもたらしたもの。
それは

炎が扱えないというだけで和麻の全てを否定し挙句の果てには身一つで家から放り出したのだ。

和麻には見捨てられるどころか復讐されても仕方ないだけのことをしてきたのだ。

そんな和麻の意思を十分に理解したのか厳馬は最後通牒を出した。

本来説得を目的としていても、和麻に対して誰一人出来るとは思っていなかった。

和麻が耳を貸す人間など、神凪には誰一人存在しないのだから。

説得できないようなら・・・戦い倒すしかない。
倒せるかどうかは別として。

だが、和麻との戦闘は最後の手段だ、早々簡単に諦めるわけにはいかない。なぜなら、厳馬にとってだけでなく、神凪にとっても和麻は妖魔に対抗するために必要な『力』である。

その『力を』今ここで手放すわけにはいかなかった。


「馬鹿者が。多少力を持ったからといって神凪に勝てると思っているのか?自惚れるな」

厳馬としては、自分の力を(力の違い)を考え直させルつもりで言った。が、この言葉は失敗だった。

和麻の雰囲気がさらに険悪になる。

「ま、待て! 和麻、今我々と敵対しても、お前には何の利もない。それどころか謎の敵をさらに有利にするだけだぞ」

このままでは不味いと思い重悟は慌てて、和麻に弁明する。

「ん?宗主ですが、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「あ、ああひさしぶりだな」

「話を戻しますが、利ですか?利はありますよ。もう二度と神凪の・・・お前らの顔を見ないですむし!心(やけど)の傷み悩ませられることもない!!これ以上の利が俺にありますか? それに謎の敵ですか? 俺にとってアンタ達は敵だ、そして、なぞの敵もあんた達の敵だ。つまり『敵の敵は味方』なんだよ」

和麻は言い切った

重悟は和麻の言葉にただ頭を抱えるしかない。完全に和麻は敵に回った。いや、和麻にとって神凪一族は最初から敵だったのだが。

「これ以上、お前らと話し合うことはない、もし天国やらにいけたら、あんたにとって唯一の汚点であり、失敗作で無能者の『神凪』和麻にせいぜい謝るんだな」

この言葉は決定的だった。

自分はもう『神凪』和麻はく『八神』和麻だと言っているのだ。

そして、

和麻は厳馬が自分を失敗作であり処分したくてたまらないと思っていた。

実際のところは正反対なのだが、和麻がそう思っている以上それは紛れもない『事実』である。

「待て、待て和麻。お前は本当に神凪と敵対するつもりか?」

「さっきも言ったが俺にとってお前達は生まれた時から敵なんだよ!」

「・・いいだろう。それほどまで言うのなら、相手をしてやる」

「厳馬!?」

重悟は慌てて厳馬に詰め寄るがソレより、厳馬は答えた。

もはや説得は不可能としか言いようがない。否、もともと不可能だったが。

そして、息子が誤解している事を憎んでいる事を理解している彼にはこう答えることしか出来なかった。

「時間と場所を言え」

和麻はどうするか考えた、妖魔と戦って負けるとは思えないが、それは完全な調子の時ならの話だ。厳馬と戦い疲労したところを狙われれば、和麻と言えども分が悪い。

だが、だが、『厳馬を殺す』それは、とても、とても魅力的気な話だ、自分を罵倒し蔑み、最後に無能者は要らないと言い自分を捨てたこいつを殺す、その魅力に和麻は勝てなかった。

「今夜、12時港の見える丘公園フランス山で」

和麻は率直に言い

「よかろう」

厳馬も率直に応じた。

「では、後ほど」


弾んだこえで別れを告げた。
電話を置くと和麻は目を閉じた、

過去(六年前)のことが昨日のことのように次々と浮かび上がってきた。



あとがき?

私の駄作を読んでいただき誠にありがとうございました。

できることでしたら、感想と今後こうして欲しいなどの
意見を宜しくお願いします。



メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.10 )
日時: 2005/06/18 09:41
名前: 空kara

風の聖痕のSSは最近あまり見かけなくて久しぶりに連載で長編SSでとても嬉しく思います。
和麻に何か新しい能力や武器なんかがあると嬉しいです。(例えばここのHPの池猫さんのSSのような武器など)
期待しています。頑張ってください。
(個人的には綾乃はそんなに好きじゃないです・・・)
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.11 )
日時: 2005/06/18 18:19
名前: スレイヤー

始めまして、空karaさん

スレイヤーです。

私の駄作を読んでいただき、更に感想まで頂き誠に感謝ありがとう御座います。

和麻の能力や武器に関して言えば、 空karaさんの期待に添えるよう頑張ります。

今後もよろしくお願いします。


メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.12 )
日時: 2005/09/15 22:40
名前: スレイヤー



「こんな初歩的な、ことさえ出来んのか」

「恥をかかせおってからに、この無能者が!」

                     
「何故私の息子がお前のよう無能者なのだ」

何度も罵られた・・・



「負けたというのか」

「負けたというのか、十二の小娘に」

質問ではない、確認ですらない。怒りを超え、失望さえも通り越し、無為に流れる言葉は、惨めな敗者をギタギタに打ちのめした。

「・・・申し訳・・・ありません」」

少年は額を畳にこすりつけ、か細い声をしぼりだした。

男は何も言わず、目の前で振るえる、少年を冷ややかに見据えている。

「・・・もうようい、お前を炎術師にしようとしたこと自体が、間違いだったのだ」

この、言葉は和麻をひどく傷つけた。

『お前が今まで、やってきたことは全て無駄だったのだ』と言われるの等しいのだから
今まで、父に認めて貰うために、努力を重ねた、分家の苛めにも耐えてひたすら努力した、その努力が無駄だった。といっているのだから。

「今日からお前はもう炎術師の修行をする必要は無い」

「父上、それは・・・」

和麻はその父の言葉の意味がわからず、聞き返そうとした。だが次の言葉は和麻にとって衝撃的なものだった。

「そして、炎術師でないものが、神凪にいる必用も無い」

「え・・・」

和麻はの表情が凍りついた。

「今日より私はお前の父ではない、此処に、僅かばかりの金がる、これを持って、何処えなりとも失せるがいい!!」

「父上、な、何を・・・」

「貴様は私の息子でもなんでもない。どこへなりとも失せろ、といったのだ」

「な、ち、父上っ」

「何度も言わせるな。私はもう貴様の『父』ではない。お前など私には要らぬ。すぐに神凪から消え去れ」

「お、お待ちください!!」

それでも和麻は父の腕を掴む。しかし、厳馬はそんな彼を無造作に振り払う。どれほどの力が込められていたのだろうか、和麻は壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられた。


「ちちうえぇー!」


男は振り向きもせず、歩を進める。
全てもなくした、少年の絶叫に答える者は、もう・・・誰もいない。

そして、全てをなくした・・・


和麻は目を開ける。その表情から何を考えているのか分からないが。

身に纏う風が全てを教えていた。

「アレから六年、俺は強くなった、お前を殺して、殺して、殺し尽くせるぐらいにな・・・」

和麻はそう呟くと、部屋を後にした・・・


神凪本邸


「厳馬、おまえは自分が何を言ったかわかっているのか!!」

宗主重悟は声を大にして、厳馬に詰め寄った。

だが、厳馬は平然と言い切った.


「無論、分かっています」

「ならばなぜ、あのような事を言った!」

「和麻は説得できません、説得できないようなら、戦い倒すしか有りません。それに、あのまま和麻を放っておけば状況は更に悪くなるばかり、ならば、いっそ此方から、誘導した方が有利になります」

「ソレが何を意味するのか、分かっているのか?」

厳馬の言葉は和麻を自分の手で、始末すると言っているのだ。

重悟はソレを分かっているのかと問い掛ける。

「無論分かっています」

厳馬は率直に言う。だがそれだけに、決意の硬さが垣間見れた。

「ならば、もう何も言うまい・・・」

「それでは、私は和麻のところに行ってきます」

厳馬はまるで、散歩に行って来るかのような口調で言った。がそこを重悟に止められ。

「厳馬」

「何でしょうか?」

よびとめられた厳馬は振り向きもせずに返事をした。

「行くのは構わん。だが、そのままではみっともない、せめて涙だけは拭いていけ」

「何を馬鹿な。涙など、女、子供が流す物、私には関係有りません」

厳馬は言い切りとそのまま、出て行った。

だが、厳馬の顔には涙が一粒流れていた。

それは悲しみか、それとも情けない自分への怒りのためか・・・

「・・・何処まで、何処まで、不器用に生きればすむというのだ、厳馬・・・」

重悟の呟きに答えを返すものはいなかった・・・・・


メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.13 )
日時: 2005/09/07 23:06
名前: スレイヤー

深夜12時港の見える丘公園フランス山−−−ここは自然のままといえば聞こえがいいが、木々が鬱蒼と生い茂り、公園とは思えないほどに薄気味悪い場所である
昼間でも、薄暗いここに、よる忍び込めば冗談抜きでス遭難する。

・・・約束の時間丁度に約束の場所に現れる厳馬。

「和麻はまだ来て居ないか…臆病風に吹かれたか・・・」

近くに和麻の姿が無いのを見て取ってつぶやく厳馬。

次の瞬間

「さて、時間になったことだし、始めるか」

和麻の声が響く、相変わらず和麻の姿はない。
風牙衆という奴隷を使役している厳馬にはすぐに理解できた。呼霊法である。

同時に無数の風の刃が厳馬を襲う。
必死になってそれを防ぎながら叫ぶ厳馬

「和麻か、何処にいる。姿を見せろ」

厳馬の妄言に対し、返答がきこえた。・・・かなり呆れたように・・・

「ふう、いったい何処の馬鹿が敵に居場所を教えるんだ、知りたかったら自力で見つけてみせろ・・・まぁ、火をつけるしか能のない下術使いごときにできるとは思えないけどな。」

その声と同時に和麻は風を放った。

だが、厳馬も一流の術者である、その程度のことで、集中を乱したりはしない。

和麻の放った烈風を炎で相殺した。

「ふん、臆病者が、自分から闘うと言っておきながら、姿を現す事も出来ない、出来そこないが何を言っている?やはり、お前のような無能者を生かしたおいた、私が馬鹿だった。」

今度は、厳馬が揺さぶりをかけてきた。

「なんと!!テメー・・・」

和麻はこの言葉に冷静さを失い姿を現した。

厳馬が待ちに待った瞬間だった。

戦闘の最中に冷静さを失うなど、愚かとしかいいようが無い、一瞬の隙がこちらに引き寄せていた勝利の女神を相手に譲り渡すことになりうるのだ。

相手がミスをするまで待つことが和麻の確実な勝利を得る手段だったのだ。

しかしもう遅い。勝利に急ぎすぎたことがどのような代償を支払うことになるか教えてやる。
所詮は若者、まだ経験不足だったのだろう

「そこだ!!」

厳馬は和樹にめがけて己の全力の黄金の炎を解き放つ。

だが、和麻はその攻撃を紙一重でかわした。

「あぶねーあぶねー、俺を怒らせその隙を狙う作戦だったのか?やるじゃねーか、厳馬」

そう呟くと、和麻は再び姿を消した。

「もうその手は食わないぜ!まさか、卑怯などとは言わないよなぁ。お前ら炎術師が高い攻撃力を活かすように俺は風術の長い射程と御行を活かしているだけだからな」

和麻の言葉に厳馬は歯噛みした。同時に、和麻の攻撃に備え炎を呼んだ。

「ここだ」

和麻は声と同時に攻撃を仕掛けた。
だが、これは厳馬にやすやすと防御された。

「ここだ」

「ここだ」

「どこを見ている?俺はこっちだ」

公園のいたる所から和麻の声が聞こえ攻撃が来る。

だが、この程度の攻撃だ、厳馬を倒すことはできない。
その事は和麻も理解しているだろう。

和麻が狙っているのは、厳馬の隙でありその隙を狙い最大の攻撃を放つつもりである。
また、厳馬もそれが分かるだけに、和麻の最大の攻撃にあわせて此方も攻撃をするつもりだ。

事態はこうちゃく状態に突入した。





だが・・・




「さて、これで、こっちは後回しにできるな」

「くくく・・・馬鹿なヤツだな、では、『約束どうり』神凪一族を皆殺しにするか」

和麻はそう呟くと、その場を去った。
厳馬を1人残して・・・

これが、和麻の作戦だった。厳馬と戦い勝利しても、その後、妖魔との戦闘になれば、いかに和麻といえども、苦戦はする。

ならば、どうするか。

今のように、厳馬と戦闘し『途中で抜け出す』これが、和麻の考えた作戦だった。

具体的には、初めに姿を隠して攻撃を行い、厳馬の言葉で、『切れたフリ』をし、姿を現しまた隠れる

これをやられると、相手は『隙をうかがうために隠れた』と思うだろう。

厳馬もそう思った、さらに、相手は風術師、姿を消されたら、炎術師では絶対に見つけられない。

それこそ、攻撃をしてくる直前まで、だからこそ、厳馬は和麻の攻撃に備えて集中している。

和麻がそこにいないことを気付かづに。

これが、和麻の狙いだった。

厳馬を此処に縛り付け、その間に神凪一族を滅ぼす。
あわよくば、初めの戦闘(やり取り)
で妖魔を引き寄せて、妖魔と厳馬を戦わせる。

そして、神凪一族を滅ぼした後、戻って来て厳馬を殺す(しまつ)する、もし妖魔と戦っているならば、疲労したところを狙い、両方始末するか、勝利した方を不意打ちで殺す。

仮に、厳馬と妖魔が戦っていなくても、長い間、意識を
集中させていれば疲労する、そして。そこをねらう。

さらに、此処は港の直ぐ近く=海があり水が沢山ある。
だがら、どうした?
と思う人もいるかも知らないが、此処は水の精霊の力が、もっとも強まる場所の一つであり逆に火の精霊の力が最も弱まる場所でもある。

そして、厳馬は炎術師である。

此処では、厳馬の力が弱まるのである。

また、海の近くという事は常に風が吹いている。

此処は、風の精霊の力を強くする場所の一つである。

さらに、此処は木々が生い茂っており姿を隠すのには最高の場所である。

まさに、『いたれりつくせり』である。

仮に、厳馬が妖魔と戦い勝利しても、疲労したうえ、海の影響で自分の力が弱まり逆に和麻の力が強まれば。厳馬に勝ち目はない。

どっち、にどう転ぼうが、何が起きようが、和麻が絶対、有利になる作戦である。

だが、もし、厳馬が途中で気付いたら?この計画は台無しである。

そのために、和麻は初めにやったようにマジック・トラップを仕掛けてある。

厳馬に時々声をかけている、これも作戦の一つである。

人によっては隠れているのに声を出すと意味が無いんじゃないかと、思う人もいるかもしれない。

だが、和麻は『風術師』である、それも超が三つも四つも付くほどの。

声を『とどめて置く』ことなど朝飯前である。

今、厳馬が聞いている和麻の声は、和麻が、あらかじめ置いていたラジカセのテープように、風術で、さも『今』喋っているように聞こえさせている。

攻撃が来て、なおかつ、声が聞こえれば、今、此処に敵がいると思うであろう。



まさに、和麻の作戦は完璧である。

そして、和麻は神凪一族を滅ぼすために屋敷に向かった。
厳馬を一人残し・・・


あとがき

綾乃と和麻の関係をどうするか(カップリング)

かなり悩んでいます。そこで、アンケートをとりたいと思います。

掲示板でも感想掲示板でもよろしいので、ぜひ、書き込んでくだい。

皆様どうかご協力くださいお願いします

最後に私の小説を読んでいただき誠にありがとう御座いました。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.14 )
日時: 2005/07/09 11:56
名前: 無名

すごく面白いです、続きを楽しみにしてます。頑張ってください。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.15 )
日時: 2005/07/17 12:44
名前: スレイヤー


神凪本邸

「さて、どうするか」

和麻姿は闇に紛れていて見ることができない。

「こいつらを、殺すのは簡単だが、宗主がに出てこられたら、流石に分が悪いな」

神凪重悟は史上最強といわれた屈指の術者である、事故で片足失ってはいるが、その力は衰えていないはずだ。

いかに和麻が、超が三つも四つもつく一流の風術師であろうとも、攻撃の瞬間は必ず殺気が漏れ、相手にばれる。

見つかってしまえば、此処は敵地である。

もし、厳馬が連絡をうけ戻ってくれば、和麻の圧倒的不利である。

術での戦いは流石に分が悪い。

なら、どうするか?

押してだめなら、引くだけだ。

風術で殺さず体術で殺すまでだ。

精霊魔術で分が悪いなら体術で始末をするまでだ。
相手は最強といえども、事故で片足を無くしている、殴り合いで負けるとは思えない。

(だが、どうするかな・・・・・)

和麻は悩んだ、神凪一族を滅ぼすことに決めてはいるが、宗主を殺すことには躊躇いが有った。

宗主、神凪 重悟はただ一人、和麻に愛情をもって叱り、そして優しく接しくれた、人である。

和麻が苛められているのを、知っていながら、どうすることも出来ずにいたことは確かだが、救ってくれたことも確かである。

その、宗主を殺すことは少しばかり気が引けた。

また、殺すにしても、じわじわと嬲り殺すのはできなかった。

そんな、事をすれば師であるジンが、悲しむであろうから。

師であるジンの悲しむことはしたくなかった。

師、ジンは奈落の底にいた自分を再び地上に引き上げてくれた人であり、
また、弱かった自分を、無力だった自分を、泣く事しか出来なかった男を一人前の『漢』にしてくれ、自分が覚えた力を正しく使うことを教えてくれた人である、

そして、和麻をほかの誰でもない『和麻』として扱い接してくれた世界でたった二人の内の1人である。

その師を悲しませることは和麻はできなかった。

(取りあえず、宗主に一度、挨拶だけはしておくか)

和麻はそう結論した。

もしそれで、向こうが向かってくるなら。宗主といえども、遠慮なく殺すことができる。

師ジンの言葉が蘇る

― 和麻、人には言葉という素晴らしいものがある。力による解決を行うようなら獣と同じです。できることなら,
言葉による解決を行いなさい。でも、もし相手が力による解決を望んだなら、そのときは全力で戦いなさい。そんな相手には何を言ってもむだですから―

さて、では行くか。

和麻はそう言うと、神凪本邸に入っていった。

全ての、過去にケリをつけるために。



あとがき

遅れてしまって申し訳ありません、しかも短いし。

次は、もう少し早く書き上げます。

それと、次はついに神凪一族の分かれ道です。

これから、本当の意味で無能な彼らはどうなるのでしょうか?

最後にこれからの、行方は皆さんの感想や意見を大切にしたいと、思います。

感想掲示板にこれかどうして欲しいか、こうした方がいいんじゃないかと言う皆さんの素晴らしいアイディアを私にいただけないでしょうか?

ぜひとも、よろしくお願いします。
メンテ
Re: 風の聖痕 蒼の行方 ( No.16 )
日時: 2005/09/14 23:16
名前: スレイヤー




神凪本邸の一角

空を見詰める少年がいた。

年はまだ十か十一くらいだろうか・・・その顔は幼く、またとても可愛らしいもので、女の子と見間違えても仕方がないと思える程の顔・・全体的におっとりとした雰囲気をしていて、ベージュのパンツにダッフルコートを着た、いかにも、良家のお坊ちゃんといった感じのでる少年である。

(兄様、一体貴方になにが有ったんですか)

父である厳馬が和麻と煉との接触を極端に嫌い、二人を遠ざけていた、その為
半年に一度、下手をしたら一年に一度会うしか会うことが無かった。

だがそれでも煉は兄を慕った。実の兄弟であったからでもあるが、煉は和麻を尊敬していた。炎術の才こそなかったが、それ以外では実に著しい才能を持ち、そして優しかった兄のことを。

六年前に何の前触れもなく姿を消した兄・・・父も母も、兄のことを忘れろと言い張りながらも、煉はずっと兄の身を案じていた。

そして、遂最近になって日本に戻って来たという報せを聞き、嬉しく思った。

優しかった兄にまた会うことができる、そう考えていた。
しかし、事態は予想外の方向に進んでいった。まさか兄と神凪が戦争になるとは・・・。

妖魔と契約し、神凪の術者を殺したなどとは、とても信じられなかった。

(僕は信じています。兄様は絶対やっていないと!)



「煉様、何をしておられるのでしょうか?」

「流也!・・・・驚かせないでくださいよ」

煉はいきなり声をかけられ驚いた。

いつの間にか煉の背後に風牙衆の次期当主である流也が声をかけたのだ。

「それは申し訳ございませんでした。ところで、煉様このような所で一体どうなさったのですか?」

憂い気味な煉の表情を読み取ったのか、流也が尋ねるが、煉は黙り込み・・・そして、その答に思い至った流也が口を開いた。

「和麻様のことを・・・お考えでしたか?」

煉が今思い悩むと言えば、心当たりは一つしかない……今や、神凪全体の敵…裏切り者といわれる八神和麻のことしかありえない。

「・・・うん・・・流也も、やっぱり兄様が裏切り者だと思ってるの?」

遠慮がちに尋ねる煉に、兵衛は表情を顰める。

「皆様もそう思っています・・・私も、本音で言えばそうでないかと思っております」

その答に、やや落胆した様子を見せるも、次に発せられた言葉に、顔を上げる。

「ですが・・・仮に和麻様が本当にそうだとしたら、それもある意味では仕方がないことかもしれないと思うのです・・・」

やや驚いた表情を浮かべる煉。

「煉様はあまりご存知ないと思いますが・・・和麻様が、炎術の才が無いということで宗家を追われたということはご存知ですよね?」

それは流石に煉とて聞かされている。

「神凪にいた頃の和麻様は、それは酷い扱いを受けていました・・・宗家の嫡子、ということも災いしたのでしょう・・・分家の方々に何度も罵られ、虐待されていました・・・」


集団の暴行を受け、死んでもおかしくないぐらいに傷付いていた和麻・・・無論、そんな彼にまともに接する者は、当時では重悟くらいのものであった。

煉も、半ば呆然となっていた・・・兄が神凪に疎まれていたのは聞かされていたが、そこまで酷いとは思っていなかった。

というのも、煉は生まれてからほとんど和麻と離されて生活していたので、知ろうにも知れない状態にあったのは否めない・・・

「でも・・・僕は兄様を信じたい、これには何か訳があるって」

接した機会はほんの数えるほどでも、それでも優しかった兄を未だに信じる煉。

そんな煉に、流也は微笑む。

「そうですね・・・私もできることなら、同じ風術を扱う物同士、信じたいと思っております。しかし、煉様は何ゆえ和麻様を信じられるのですか?その理由を是非とも教えて頂きたいのですが」

流也の言う事は最もな話である、一族の全てが和麻が敵だと信じており、更に今流也から聞いた話が本当なら、和麻は神凪に相当な恨みを持っているはずである、それでも和麻を信じる事ができると言うのは、何か理由があるとしか考えられない。

流也の言葉に煉は一瞬考えるようなそぶりを見せたが、意を決して口を開いた。

「噂を聞いたんです。ヨーロッパのオカルトサイトで・・・コントラクターは日本人だって・・・そう言っていました。根拠はありません・・・けど分かるんです。歴史上で唯一存在を確認されたコントラクターは、兄様のことなんだ」

その言葉を聞き流也は目を丸くした。

「ソレは本当ですか?!」

行き成り強い口調問い掛けられた、煉は思わず引きながら流也に言葉を返した

「ど、どうしたんですか流也、行き成り?」

言われた流也はハとしたあと我に返り、煉に向かって慌てて頭を下げた。

「行き成り取り乱してしまい、申し訳ありませんでした煉様」

「いいんだよ、行き成りこんなこと言われたら驚くのが普通だからね」

煉のいう事はもっともである、『コントラクター』その言葉にはそれほどの意味が有るのである。

「では、確かめに行かれてはどうでしょうか?」

「えっ?」

流也の言葉に煉が驚いた。

「煉様のいう事が正しいのなら、和麻様が犯人のはずが有りません、ならば直接行って和麻様を説得されればよろしいのではないでしょうか?」

「で、でも!」

「和麻様がいる場所なら既に別のものたちが突き止めて降ります。仮に、妖魔が襲って来ても煉様のいう事が確かなら、如何とでもなるのではないでしょうか?それに煉様は和麻様を信じておられるのでしょう?なら、尚のこと一度会って話をするべきでは有りませんか?」

「そうだね、僕は兄様を信じる! たとえ神凪の人間全員が疑っても、僕は最後まで信じるだから、そのために兄様に会いにいく!!」

流也のいう事はもっともである。確かに妖魔は強敵だが和麻がいれば何ら問題は無いし、
和麻と仲が良かった自分ならば、和麻も話を聞いてくれると煉は信じていただからこそ煉は覚悟を決めた。

「ありがとう、流也おかげで決心がついたよ」

「礼には及びません・・・ですが、私も御一緒させていただいてよろしいでしょうか? 私が付いていったところで、何のお役にも立ちませんが・・・」

「いいの?」

「はい、かまいません」

「ありがとう」

「では、善は急げと言いますから、直ぐにでも向かいましょう、煉様準備の方はよろしいでしょうか?」

「うん、直ぐにでも出られるよ」

「なら、行きましょう」

二人は和麻の下に向かった。だが

流也は煉の言った事を深刻に考えていた、もし煉の言った事が本当なら、自分達の作戦は灰燼に帰すからである。

(このことを一刻も早く父上に報告せねば、まさか、本当の話とも思えんが、確認することに越したことは無いからな、それにしても、くくく・・・くくくく・・・・もう少し、人のことを疑ったほうがよろしいですよ、煉様)

まだ、幼く純粋な煉は気付かなかった、流也の顔に狂気と言う名の影が指していたことを。



あとがき


更新が送れしまい誠に申し訳ありませんでした。

会社の都合上、早々と更新できないでいます。
風の聖痕 蒼の行方の楽しく読んでいただいている皆様には大変申し訳ございませんが、平にご容赦をお願いします。

また、最近ネタにとても困っています。
大変申し訳ありませんが、どなたかネタを提供していただけないでしょうか?

不出来な作家で申し訳ございまんが
どうか、よろしくお願いします。
メンテ

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